肥満マウスのレプチンレセプター遺伝子(糖尿病遺伝子)にポイント・ミューテーション(点突然変異)

研究者の目は、レプチンからレプチンを受けとるキャッチャーに相当するレセプター(受容体)というタンパク質に移った。

 その研究者の代表が、ミレニアム製薬のルイス・タタグリアだ。彼は、肥満遺伝子は正常にはたらいてレプチンをつくるが、別の遺伝的な理由により、ブクプクに太る肥満マウスに着目した。

 そして1995年12月、彼は、このマウスから肥満の原因と思われる欠陥遺伝子を捕まえ、これを糖尿病遺伝子(db遺イ云子)と名づけた。ここで、dbはデブの略ではなく、diabetes (糖尿病)の略である。

 この肥満マウスは、レプチンは正常につくるのだが、それを受け取るレプチンレセプター遺伝子(糖尿病遺伝子)に欠陥があるのだ。 db遺伝子という名前の由来は、この遺伝子に欠陥を持つマウスは肥満になるから、やがて糖尿病になるのは確実ということである。食物を十分に摂ると全身の脂肪細胞でレプチンが

   生産される。このレプチンが血液の流れに乗って脳に入り、視床下部にあるレセプターにくっつくことで、食欲を抑制する飽食シグナルが発生する。これで食欲が低下し、過食がとまるのである。過食がとまれば、カロリーの摂りすぎが解消され、スリムになる。

 しかし、レプチンに異常が起きても、その受け手であるレプチンレセプターに異常が起きても、食欲を抑えるシグナルは発生しない。これでは食欲はいっこうに減らす、その結束、過食がつづき、肥満になる。

 レプチンとそのレセプターは食欲のブレーキとしてはたらいていることが判明した。レプチンとレプチンレセプターのどちらか一方に故障が発生しても、食欲のブレーキがはたらかす、肥満という結果になるのである。

 では、肥満マウスではレプチンレセプターのどこが異常なのか。これを知るには、レプチンレセプター遺伝子(糖尿病遺伝子)の塩基配列を、正常マウスと肥満マウスで比べてみればよい。

 正常マウスでは、レセプターが細胞の外側から内側に突き抜けている。すなわち、細胞の外側にあるレセプター部分が、血液によって運ばれてきたレプチンを捕えると、これが細胞の内側のレセプター部分に伝えられ、食欲の低下が始まる。

肥満マウスのレプチンレセプター遺伝子(糖尿病遺イ云子)を調べると、覿くべき事実が明らかになった。それは、細胞の外側のレセプター部分はあるのだが、細胞の内側のレセプター部分はほとんど何もなかったからだ。これでは、細胞の外側のレセプター部分でレプチンを捕えても、そのことが細胞内部にまったく伝わらない。このため食欲を抑えるシグナルが発生しないのだ。食欲にブレーキがかからず、過食がやまず、肥満になる。

 さらに詳しく見ていくと、正常マウスでは細胞内部のレセプター部分には302個のアミノ酸があるが、肥満マウスではこの部分がスッパリ切れてなくなり、34個のアミノ酸だけが残っていた。本来302個のアミノ酸があるはずなのに、実際には34個のアミノ酸しかできてこなかった。こんなに短い夕ンパク質ができてしまったのはどうしたことか。

 さらに詳しく塩基配列を見ていくと、肥満マウスのレプチンレセプター遺伝子(糖尿病遺伝子)には、Gが丁に置き換わるポイント・ミューテーション(点突然変異)が起こっていた。このために、ストップコドンが突如として現れ、タンパク質の生産が途中で終了してしまったのだ。

 わすか1個のポイント・ミューテーションがレセプター遺伝子のなかに発生するだけで、正常マウスから肥満マウスへと変身したのである。ただし、このような例はヒトでは発見されていない。