自己選択など個人因子に依存するQOL

 

Medicine (EBM)実践の努力の一方で、個人の語る物語を重視するNarrativeBased Medicine (NB以)にも光があてられはじめている。個人の生活を尊重するヶアの領域ではとりわけ、個別性・臨床知が重要であることの表われと思われる。


 訓練によって機能障害やADLレベルの回復が望めない全介助患者でありながらQOLが向上したと思われる3事例を紹介し、QOLとそれを高める援助方法について考察した。

 QOLを高める支援をするためには、足りないものを補う発想ではなく、QOLを高める「インパクトゴール」を設定し、それを実現するために必要なプログラムを作成するという「ゴール指向」の取り組みが必要である。その際には、国際生活機能分類ICF)の「参加」レベルのゴールや、マズローのいう「自己実現の欲求」など、より高い階層の欲求に着目することがインパクトゴールを設定する手がかりとなる。また、アセスメントとゴール設定においては、囗固人因子]を重視して、その人の価値観や夢、自己決定に基づく自己実現を支援する視点が必要である。一方、介入方法を考える段階では、本人への働きかけだけでなく、機器の利用や周りの人々への働きかけなど「環境因子への介入」が重要となる。

 自己選択など個人因子に依存するQOLを高めるためには、個別性や「臨床知」そして「アート」が重要であることを強調したい。

文献
1) WHO (世界保健機関):International classification of functioning, disability and
 health:ICF. Geneva, 2001. (邦題:国際生活機能分類国際障害分類改訂版-.中央法規
 出版. 2002.)
2)マズロー(Maslow, A. H.)小口忠彦訳:人間性の心理学,改訂新版.(原題:Motiva-
 tion and personality. 2nd ed, 1970).産業能率大学, pp. 55-90, 1987.
3)上田 敏:リハビリテーションの思想一人間復権の医療を求めて,第2版.医学書院,
 2001.
4)デイビット・P・マクスリー(野中猛ほか訳トケースマネジメント入門.中央法規出版
 1994.
5) Engel, G. L.:The clinical application of the biopsychosocial model. Am J Psychiatry
 137 : 535-544, 1980.
6)ウィリアム・オスラー(日野原重明ほか訳):平静の心.オスラー博士講演集,医学書院,
 1983.
7)中村雄二郎:臨床の知とは何か.岩波新書, 1992.
8) Greenhalgh, T Greenhalgh, T。Hurwitz, B.:Narrative Based Medicine - Dialogue
 and Discourse in Clinical Practice. BMJ Books, London, 1998.