閉じこもり症候群の原因と予防策

 

 閉じこもり予防・支援は、介護保険制度の見直しに伴って重視されるようになった介護予防の重点の一つである。また在宅生活のQOLの視点からも重要である。 QOLを測る1つのものさしは、生活圏の広さである。同じ重度要介護であっても、ベッド上で天井だけを見て暮らす生活と介助を受けてでも車いすを使って外出する機会がある生活とでは、後者の方がQOLが高いと見なせることが多い。屋内に閉じこも川犬態になることは、いろいろな弊害を招いてしまう。構神機能、身体機能の低下(廃用症候群)にとどまらず、社会的な接触も減少し、介護者の負担感も増大させるなどいろいろな症候を合わせもつ、閉じこもり症候群を招いてしまう。しかも、いったんこのような状態に陥ると、外出するのに必要な体力はますます損なわれ、構神面で本人も家族も外出することに気が進まなくなる。その結果、ますます閉じこもり状態からの脱出が困難になるという悪循環を形成し、生命予後にも悪影響を及ぼす。

 在宅要介護者にかかわる場合には、この閉じこもり症候群をきたしていないか否かを評価することがまず重要である。まだ、症候が明らかでない場合でも、閉じこもり状態の者を発見した場合には、放置すべきでない。以下のような原因を探し、それを除去し閉じこもり状態からの脱出支援を検討すべきである。

 ここでは、この閉じこもりを材料に、要支援・要介護者とその家族が持っている多面的なニーズを、総合的にアセスメントする必要性を考えてみたい。


1) CGAの枠組み

 閉じこもりはいろいろな原因により起きるが、1つの原因だけでなく、いくつもの原因が組み合わさっていることも多い。高齢者を対象に総合的に評価するのがCGA (Comprehensive Geriatric Assessment : 老年医学的総合評価)である。 CGAを行うと疾患レベルの評価だけの場合と比べ、生命予後が改善し施設入所率を抑制できることが、多数の対照比較試験のメタ分析ですでに確認されている。 CGAの一種と見なせるアセスメントッールMDS-HCでも、施設入所率が抑制できることが無作為化対照比較試験((Column) p。43)で確認されている

 疾患・身体機能、精神機能、生活機能、人的環境・居住環境の順に、よくある閉じこもりの原因と主な対策を紹介する。

2)疾患・身体機能

 疾患の重度化か閉じこもりの原因であることに説明は不要であろう。しかし、廃用症候群については、ほとんどの患者や高齢者に生じているにもかかわらず、しばしば見逃されている、あるいは過小評価されていることが多い。

 廃用症候群は、疾患をもっていなくとも、閉じこもり状態(あるいは、ときに外出はしていても、不活発な生活をしている)すべての者に生じてしまう。その影響は、一般に理解されているよりも大きい。例えば、全介助にとどまれば、CTで計測しか大腿筋断面積は2週問で2割も減少すjビ。また、筋萎縮だけでなく、関節拘縮、起立性低血圧や心拍出量低下、構神活動の低下をけじめ、全身のあらゆる臓器の機能低下を招くという意味でも重大である。廃用症候群が悪化すれば、疾患は安定していても、外出に必要な体力が低下し、疲れやすさを訴えるようになり、閉じこもりの原因となる。

 廃用症候群への対策は、生活を活発にすることである。ケア・マネジメントする場合にも、訪問系よりも通所系サービスを優先させること、定期的な外出先をつくり生活にメリハリをつけることが重要である。ただし、それらだけでは運動量は不足しがちである。さらに体力を向上させるためには積極的に運動をする必要がある。自宅でもできる運動種目は、毎日の散歩や起立(立ち上がり)訓練である。歩行可能であれば1日で合計1時間程度の散歩を指導する。訪問看護の対象者に多く見られる歩行不能な者の場合には、介助を受けて起立できるレベルならば行える起立(立ち上がり)訓練を指導する。

 起立(立ち上がり)訓練は、手すりやテーブルなどにつかまり(必要であれば介助も受け)ながら、ゆっくりと立ち上がり、立位となった後、ゆっくりと座る動作を繰り返す訓練である。 1分間に6回、一度に5分間、1日に3度やれば、1日で(6回/分×5分×3度090回はできる。ゆっくりやれば、よほど体力が落ちている場合や心疾患例を除き、心拍数が100拍/分を超えることはまれで、心臓に負担になることはまずない。その他片麻痺の場合にも両側の下肢に均等に体重をかけること、上肢の力に頼りすぎず下肢の力で立ち上がること、座るときにドシンと座らないでゆっくりと座ることなどを指導する。そのほか自主歩行訓練(散歩)と起立(立ち上がり)訓練についての詳細は他で紹介したので参照されたい。