閉じこもりの自立支援:回復可能性と代償可能性

 閉じこもりの原因として。精神機能で重要なものは、認知症とうつである。

 本人が「外出を希望しない」と口にしたからといって、放置してよいことににならない。知的機能が低下していても、適切な援助により、やがて「外出を楽しみに待つ」ように認知症高齢者が変化することはまれでない。

 うつは、その7割が薬物治療に反応するといわれるので、見逃さないことが重要である。地域居住高齢者で5~10%に見られると報告されており、慢性疾患患者に多いことが知られているので、在宅ヶアの対象者に隕れば、さらにうつ状態の割合は大きい。三環系抗うつ剤に比べ、副作用(囗渇、便秘、排尿障害、発汗、起立性低血圧、ねむけ、だるさなど)が少ない選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)やセロトニンノルアドレナリン再取込み阻害剤(SNRI)の使用を一度は検討すべきである。

 また、日照時間が短くなることによる、うつ状態があること、そのような例では光線療法でうつ状態が改善する例があること、さらに身体運動にはうつ改善効果があることなどが知られている。閉じこもりによるうつ状態の一部に、天気の良いときに外出することや身体活動による精神賦活効果が期待できる。

4)生活機能・自立支援か自立阻害か

 ADLの低下も閉じこもりの原因となる。 ADLが低下し、より重度の要介護状態となった場合、家族介護者あるいは外部からの介護サービスによる介助か必要になるのは当然である。問題は、そのケアプランが、自立支援を指向しているか、あるいは意図せずして自立障害となっているかである。

 例えば、介助を受けながらも歩行してトイレまで行って排泄していた要介護者が、デイケアやデイサービスでトイレにたどり着くまで我匣できず、トイレの前で失禁するようになった場合で考えてみよう。自立阻害につながるケアプランとは、家族が「ご迷惑をおかけしますから」と遠慮して今まで通っていたデイケアやデイサービスをやめてしまい、おむつ使用とホームヘルパーにケアプランを変更してしまう。同時に、トイレに連れて行くこともやめてしまうようなプランである。この場合、デイケアやデイサービス、そしてトイレに行くことは、貴重な歩行訓練を兼ねていたから、やがて下肢の廃用が進み、排泄だけでなく歩行もできなくなる(自立を阻害する)であろう。

 一方、自立支援を指向すると、同じようにおむつは使うにしても、トイレに以前よりも早めに、そしてより頻回に連れて行くことで、失禁を減らそうとすることになる。後述するように、このような努力をしている間に、回復することはまれなことではない。また、ケースによってはベッドサイドにポータブルトイレと移動用手寸り、滑り止めマットなどを用意することで、排泄動作が自立し、失敗か減る場合もある。

 自立支援をめざす方法には、回復可能性と代償可能性の2つを追求する方法がある。要介護状態からの回復可能性は、意外に高い。地域に居住する要介護者を対象とした追跡調査によれば、要介助であった者のうち、実に4人に1人でADL遂行能力に改善が見られている。回復可能性が高いのは、より若く、障害の悪化した程度が軽度で、悪化後、時間があまりたっていない者である。このような患者には、回復の可能性追求が特に重要である。一方、代償とは、従来とは違う道具(上記の例ならポータブルトイレ)の使用や次項で述べる住環境整備、トイレに連れて行く頻度を増やすなど)介助方法の変更で、目的を達成することである。