介護負担感尺度の信頼性

 

1)なぜ、改善が乏しかったのか

 期待される変化が見られなかった理由として、いくつかの可能性が考えられる。

 まず、用いた尺度の信頼性や安定性が低い場合や介護保険やケア・マネジメントの効果をとらえるのに不適切なものであった可能性である。しかし、今回用いた尺度は、信頼性や妥当性が検証されている尺度であり、独自に用いた尺度も信頼性係数αが0.80以上で、かつA市とB町の2自治体、導入前後の2時点で、ほぼ同じ結果が得られていることから、安定性・信頼性は高いと考える。また、イギリスでケア・マネジメントの効果を実証した研究では、同じような尺度を用いて介護者のうつや主観的健康観などでも、改善が見られていることから、介護保険政策が十分な効果を上げていない可能性が高いと考える。そのことを裏づけるように介護保険の前後で介護者のストレス反応の変化を検討した杉澤ら、新名らも、介護負担感の軽減はみられなかったと報告している。

 第2の可能性は、介護サービス量が改善をもたらす水準に達していない可能性である。本研究の層別分析で、要介護度軽度群とサービス利用量が多い群でのみ改善が見られたこと、介護保険後も家族による介護時間は減少していないと報告されていることなどは、この可能性と矛盾しない。

 第3の可能性は、制度設計は妥当であったとしても、今回の対象自治体で行われたケア・マネジメントや、介護サービスなどの質が悪いために、効果が見られなかった可能性である。しかし、本研究と同時に行った虐待ハイリスク者についての事例調査で、個別の状況に応じたケアプランの作成や状況の改善が半数察されており、介護サービス利用者の満足度も他自治体と比べて特に低くないこと、他の自治体における研究でも同様の結果が得られていることから、今回の対象自治体におけるそれらが特別に低質であったとは思われない。