評価研究の限界

 

 社会調査において避けがたい問題として、対象の偏りなどによる測定誤差の可能性がある。特に、前後2時点の横断調査では、対象となる介護者のかなりの部分が入れ替かっているために、見かけ上生じる(不)変化の可能性が考えられる。そこで、本研究では、前後両方時点のデータが得られる縦断データでも分析をし
たが、結果はほぼ同様であった。一方、2回とも協力した介護者(縦断デー列には、調査に協力する余裕があるなど何らかの偏りがある可能性も否定できない。 今回の回収率は、社会調査としては低くないが、偏りをさらに抑制するためには第三者による訪問面接調査で回収率を高めることなどが求められる。が、それには、より大きな研究資源(資金と人手)が不可欠である。

3)介護保険制度の3つの課題

 一連の結果から、介護保険制度の課題を3つ指摘できる。

 (1)もっと介護者支援が必要

 第1に介護保険が「在宅重視」をうたうのであれば、現状よりも多くの、あるいは効果の大きい介護者支援が必要である。介護保険導入後も、介護負担感やうつ状態、主観的に幸福でない心理状態を経験している介護者は多い。そのつらさに耐えかねて特別養護老人ホームなどへの入所を申し込んでいる者の数は、33万人を超えると報じられている。特別養護老人ホーム入所待機者の家族介護者を対象にしたわれわれの調査では、待機者の介護者では介護者全体に比べ、担当ケアマネジャーが評価した虐待などの「不適切な介護」が約2倍(34.5% vs17.2%)、GDSで評価したうつ状態が約1.5倍(35.9% vs 22.9%)も多いことが明らかになっている。(施設を含む)介護サービスを利用することについて、まわりへの気がねも、特に若い介護者層で減っていると推定される。これらが、介護保険導入後の施設入所待機者の急増をもたらしたとみることもできる。

 現状では、給付上限に対する介護サービス利用実績は50%に満たない。より利用しやすく、介護負担(感)が軽減し、在宅介護の継続を希望する介護者が増えるよう制度を見直すことが必要である。今後の政策評価研究の課題として、要介護者像別にこのような効果が見られる給付水準を明らかにして、現在の給付上限額の妥当性を検討したり、利用されているサービス量が給付上限よりも低く留まっている理由を明らかにしたりすることなどがあげられる。

 (2)より困難な例により重点的な支援を

 第2に、今後介護サービスの給付水準を引き上げる場合、より大きな困難を抱える部分に重点をおいて引き上げるべきである。その理由は、2つある。

 1つは、今回示されたように介護保険導入前後の変化(おそらくその一部は効果)は、一様に見られたのではなく、まだら状である。今後、特に対策を講じ