もう1つの理由は、ケア・マネジメントの効果は、より困難を抱える事例で実証されたものだからである。他で紹介したように、ケア・マネジメントを行うと施設入所を予防できる(在宅に留まる割合を増やす)効果は、より困難度の高い少数例の担当事例を対象に、自由度が高く創意工夫に満ちた集中的ケア・マネジメント(intensive care management) を行った場合において、実証されたものである。同じケア・マネジメントという名前を用いていても、軽症例や多数の担当ケースに、既存のサービスを組み合わせるだけでは、効果や効率は低下することがイギリスでも指摘されている。

 (3)政策インパクトのモニタリング

 第3に今回のような症例(ミクロ)レベルの政策評価(プログラム評価)で、政策のインパクト・成果をモニタリングし続けることである。政策評価の対象は広く、方法も多様である。手軽に量的に把握しやすいが故に、国や都道府県などマクロレベルの評価をもとに、現状や課題が語られがちである。それも必要なことではあるが、マクロで見た投入資源を増やし、介護サービス供給量を増やせば、必ず政策のインパクト・成果が見られるものではないことを、今回の結果は示している。投人した資源が支援を受けるべき人の元に届き、期待された政策効果を上げているのかどうかは、症例レベルのインパクト・成果に着目した評価をしてみなければわからない。このような政策評価には、手間・暇・人手がかかる。が、効果的で効率が高く、(効果があるべき人に効果が見られる)公正・公平な政策にしていくためには、このようなミクロレベルでの政策(プログラム)評価に研究資源の投入が必要である。それは短期的にみれば無駄、旧来の考え方からみれば煩わしく見えるが、中長期的に見れば無駄を減らす効率の良い投資であり、説明責任が求められる時代には避けられない投資だと考える。おわりに

 介護保険が要介護者・介護者に与えたインパクトを実証的に評価した結果、介護負担感の一部は介護保険導入後に軽減していた。しかし、それが介護保険政策による効果である可能性は低い。

 介護保険の政策目標を、より効果的に効率的に達成するためには、一層の介護者支援、集中的支援、症例レベルの政策インパクトのモニタリングなどが必要と考える。


文献
1) Schulz, R. et al.:Caregiving as a risk factor for mortality. The caregiver health
  effects study. JAMA 282:2215-2219, 1999.
2) Challis, D. et a1. (窪田暁子ほか訳):Case management m community care. Aldershot
  Ashgate万邦題 地域ケアにおけるケースマネジメント,光生儼1986.)
3) Lawton, M. P.:The Philadelphia Geriatric Center Morale Scale : A revision. J Geron-
  tol 30:85-89, 1972.
4) Yesavage, J. A.:Geriatric Depression Scale. Psychopharmacol Bull 24:709-711,1988.
5)中谷陽明ほか:家族介護者の受ける負担一負担感の測定と要因分析.老年社会学29 :
  27-36, 1988.
6)近藤克則:文献学的研究に基づく臨床的評価尺度の開発.厚生科学研究費補助金(政策
  科学推進研究事業)「基礎自治体(広域型・単独型)における介護保険制度の効率的運用と
  政策選択の評価基準に関する研究」(主任研究者:野口定久) 1999年度報告書:95-104,
  2000.
7)杉澤秀博,中谷陽明,杉原陽子介護保険制度の評価一高齢者・家族の視点から.三和
  書籍, 2005.
8)新名理恵,本間 昭:町田市における介護保険制度施行前後での在宅介護者のストレス
  反応の変化.老年精神医学雑誌13, 517-523. 2002.
9)厚生労働省老人保健健康増進等事業補助金による「在宅高齢者の介護サービス利用状況
  の変化に関する調査研究」報告書(研究委員長:橋本泰子)医療経済研究機構, 2001.
10)加藤悦子,近藤克則,樋口京子, et al.:虐待が疑われた高齢者の状況改善に関連する要
  因一介護保険制度導入前後の変化.老年社会科学25 : 482-493, 2004.
U)横関真奈美,近藤克則,杉本浩章:特別養護老人ホーム入所待機者の実態に関する調査.
  社会福祉学47 : 59-70, 2006.
12)近藤克則:イギリスのケアマネジメント.「医療費抑制の時代」を超えてーイギリスの医
  療・福祉改革140-155.医学書院, 2004.
13) Rossi P. H. et al.大島厳et al訳:プログラム評価の理論と方法-システマティックな対
  人サービス・政策評価の実践ガイド.日本評論社, 2005.
14)近藤克則:介護保険政策導入のインパクト(2)介護者の主観的尺度へのインパクト.厚
  生科学研究費補助金(政策科学推進研究事業)「基礎自治体における介護保険制度の効率的