病院の人づくり

 

 (2)福祉の場合

 福祉においても、介護保険制度や障害者自立支援制度の導入など、光と影の両面を併せもつ社会福祉基礎構造改革が進められてきた。その基本的方向の一つが「幅広い需要に応える多様な主体の参入促進」である。介護保険の在宅(居宅)サービス分野に見られるように、以前からサービス提供主体であった社会福祉法人などに加え、特定非営利NPO)法人や、さらには営利企業にまで参入が認められた。福祉分野にも、やはり他の事業者との競りあいの中で、利用者を獲得することが求められるようになったのである。

 (3)マネジメントの違いがもたらすもの

 数ある病院や施設の中には、職員の士気も、ヶアの質も、患者・利用者の満足度も高く、経営的にも安定しているところもあれば、そうでないところもある。施設長などが替わったら、職員はほとんど同じなのに、雰囲気が変わったなどと言われる。プロ野球でも、監督が替わって強くなるチームがある。これらの組織・チーム間の違いをもたらしている要因の一つが、リーダーシップやマネジメントの違いである。100年以上続いている組織・事業体は多くない。次代を担うリーダーやマネジャーを養成できない組織は死滅する。


2 マネジメントの3つの領域

少なくとも3つの領域において、マネジメントが必要である。

1)提供されるサービス

 第1に、提供するサービスの中身である。医療技術・ケア技術だけでなく、患者・利用者のニーズを総合的にとらえ、それらすべてに応えることである。本書で言えば、第2章から第6章までで述べてきた内容にあたる。この領域には、ほとんどの医療・福祉専門職が関心を持っているが、事業体として存続し続けるためには、この領域のマネジメントだけでは足りない。

2)人づくり・組織づくり

 第2は、人づくり・組織づくりである。いかなる病院・施設・法人であろうとも、ある程度の職員の退職は避けがたいものである。したがって新しい人材が入ってこなければ、組織は維持できない。一方、新人は即戦力にはならないから、育てることが必要となる。それは新人教育だけではない。より質の高い技術・専門性を身につけることは、専門職すべての生涯にわたる研修課題である。

 また、技術・専門性を高める研修だけでなく、リーダーシップやマネジメント能力を発揮できる次世代のリーダーやマネジャー養成が、組織や事業体の将来の担い手づくりとして不可欠である。さらに、人づくりだけでなく、チームづくり、組織づくりも必要である。それぞれの職場のチーム単位や、各職種単位、管理会議など、いくつもの組織づくりと運営がマネジメントのためには必要である。

3)経  営

 第3に、狭い意味での経営である。診療報酬や介護報酬の改訂動向を知り、収入が増えるように手だてを考え、無駄な費用を節減する取り組みがなければ、事業体として存続できない。出ていくお金(支出・費用)を、入ってくるお金(収入)の範囲内に抑え、黒字(利益)を生み出さなければ、必要な設備や機材、人員への投資ができなくなる。組織としての存続や実現可能な長期計画を考えるとき、バランスシートの改善など財務マネジメントも必要となる。

 ミッション・ビジョン・ゴール

 「何をなすべきか」は、[何をめざすのか]によって違う。だから、組織・事業体にとって(個人にとっても同じだが)「イ可をめざすのか」がとても大事である。

 マネジメントは、ムダ・ムリ・ムラを減らすことだとも言われる。しかし、ムダは余裕と言い換えることもでき、何かムダであるのかは「何をめざすのか」によって違ってくる。例えば、仕事がなんとか回っている時に、新たに職員を1人追加するのは、人件費が増えるという面から見ればムダである。しかし、その分で研修・指導をして人を育てたり、サービスの質を高めたりするのであれば、望ましい投資・余裕となる。このように「何をめざすのか」が重要なのである。