臨床経済学の方法論

 医療・福祉の経済的側面にかかわる研究のなかで、複数の(検査法や治療法などの)選択肢を比較して、より効率的な方法を見いだそうとする(狭義の)医療経済学的研究は、プログラム評価、臨床経済学などと呼ばれ、他と区別される。この意味で、日本で多く見られる比較対照を持だない研究は、医療や福祉経済の研究ではあるが、狭義の臨床経済学的研究ではない。臨床経済学的手法には4つある4つの手法間の違いは、アウトカムとして何(便益、効果、効用)を評価するかにある。いずれの評価手法にも長所と短所がある。ここでは詳細は省くが、短所をカバーする方法として発展してきたものである。

1)費用最小化分析(cost minimization analysis : CMA)

 費用最小化分析は、同等のアウトカムをもたらすことがわかっている選択肢間でのみ使える手法である。費用を比較し、どの選択肢の費用が最も小さいのか分析するものである。

2)費用便益分析(cost benefit analysis : CBA)

 費用だけでなくアウトカム(便益)まで金額で表示することが特徴である。長所は、異なる疾患の間や除痛と救命など異なる治療目標の間でも比較可能なこと、複数の選択肢間で便益が費用をどれぐらい上回っているか、あるいは下回っているかを金額で示し比較できることにある。短所は、アウトカムを金額で表す方法がいくつかあり、どの方法を用いるかで結果が異なってくることである。

3)費用効果分析(cost effectiveness analysis : CEA)

 費用効果分析では、アウトカムには、生存年数や発症を予防できた人数など、自然でかつ臨床上も意味がある単位を用いる。その一単位を得るためにかかった費用を比較する方法である。したがって費用効果分析では、比べる選択肢間には共通する臨床上の効果がなければならない点が短所となる。

4)費用効用分析(cost utility analysis : CUA)

 費用効用分析では、アウトカム(効用)を健康生存年(years of healthy life :YHL)や質調整生存年数(quality adjusted life years : QALY)で評価する。QALYでは、完全に健康な状態のQOLを1、死をOとし、O~Iの間の値で効用(QOL)値を表現する。結果は、QALY一単位あたりの費用で表現される。これにより、臨床上の効果の異なる多様な介入方法間でも、一単位あたりの費用が比較可能となる。短所は、QALYの評価方法により結果に幅がある点にある。