知識マネジメント

 

 これからは「知識が富を生み出す時代」だと言うので、新しい知識を効率よく生み出すための「知識マネジメント(knowledge management)」という考え方まで登場している。そこでは、知識を分類し、それを生み出す要素やプロセス、場についての概念が提唱されている。

1)明示知(形式知)と暗黙知(臨床知)

 知識にも、言語で伝達可能な「明示知」と言語化そのものが困難な「暗黙知」とがある。明示知は、形式知とも呼ばれ、体系的言語で伝達できる知識であり、数量的なデータで蓄積したり、関数モデルで表現したりできるようなものである。

 一方、暗黙知は、臨床知とも呼ばれ、個人的経験によって培われた、文脈依存的な(状況により変化する)知識や行為、技能・スキルなどであり、形式化や伝達が難しい。自転車に乗ること、泳ぐことなどが、これにあたる。これらができる人は、そのやり方を説明することはできる。しかし、それを聞いたからと言って、直ちにできるようにはならない。つまり、伝達が難しく、身につけるには経験を必要とする。優れた仕事をしている人は、語れる以上のことをしているが、それらのすべてを言葉や関数や量的なデータで表すことができない。このような暗黙知・臨床知の世界は広い。

 この両者の関係は、相互補完的であり、相互作用し相互循環する。明示知(形式知)を重視しすぎると分析に追われてデータにおぼれたり、表面だけをなでることにとどまったりして、本質に迫れない。そのような知識は、しばしば無味乾燥でつまらない。一方、暗黙知(臨床知)に頼りすぎると、過去の成功や個人の技に依存して、組織・専門職集団として知識や技能の伝承が困難となり持続不能に陥る。両者をともに豊かにすることが必要である。医療・福祉マネジメントには、臨床知が不可欠であるが、それを言語化して明示知(形式知)にする努力がもっと必要である。

2) SECI (セキ)モデル

 経験から知識が生まれ、そこから新たな行動・実践に至る4段階プロセスをモデル化したものがSECI(セキ)モデルである。

 第1段階のSocialization (共同化)のプロセスにおいては、経験(暗黙知)の共有・共感がなされる。このとき重要なのは、いろいろな経験(暗黙知)を求めて「歩き回ること」、そこで多くの体験を共有することである。第2段階のEx-ternalization (表出化)のプロセスにおいては、「対話」をするために、言葉や形によるノウハウの明示化、形式知・データを生み出すことが求められる。次のCombination (連結化)の段階では、形式知・データを収集し、組み合わせて体系化が行われる。そして、最後のInternalization (内面化)の段階で、実践的学習を通じた言葉や形の内面化か行われ、新たな行動・実践が生まれる。

医療福祉マネジメント:近藤克則著より