記憶システムでの海馬の役割とは

 

 脳のなかで記憶はどのように形成されるのでしょうか。たとえば、目で何かを見たり、耳で何かを聞くといった形で外からの情報が入ってくると、その情報は一時的に大脳辺縁系にある海馬に保存されます。これは数分問だけの「即時記憶」です。即時記憶とは、アドレス帳を見て電話番号を覚え、その間にダイヤルをまわすなどといったときに必要とされる一瞬だけの記憶のことです。

 その後、情報は、新たな記憶を書き込むための神経回路に送られ、神経細胞から神経細胞へと伝達されて海馬をひとまわりします。この段階では、数分から数時間あるいは数日の間記憶が保持されます。

 たとえば、前の日に何を食べたか、また一夜漬けで暗記した知識で試験に臨むときなどの記憶がこれで、「短期記憶」といいます。

 さて、外部から入ってくる数多くの情報のうち、特に必要度が高いと判断されたものは、その後も神経回路の網の目をまわりっづけます。その刺激によってシナプス(神経細胞から出ている突起と突起の接合部)の形や数、働きが変化し、その内容が大脳皮質の連合野に送られ、整理されていきます。その結果、数力月から一生にわたる「長期記憶」が形成されることになります。

 このように海馬は、新しい情報を取り込むこと、大脳皮質の連合野に情報を送り込むこと、さらにはそこから情報を取り出す重要な役割を果たしているわけです。その海馬が障害されると、新しい記憶を取り込む記銘力が非常に弱くなりますが、障害が海馬だけに隕られていれば、過去の記憶は維持されることになります。