アルツハイマー型痴呆の脳にはどのような変化が起きているのか

 

アルツハイマー型痴呆とは具体的にどのような病気で、患者さんの脳の内部ではいったいどんなことが起こっているのでしょうか。

 アルツハイマー型痴呆で死亡した人の脳には病態生理学的ないくつかの特徴が見られることがわかっています。第一は「老人斑」です。これはアルツハイマー型痴呆の最も早期に起こる病変で、主に大脳に広範囲に見られるシミのような小さな斑点です。

 この老人斑はβアミロイドというタンパク質が神経組織に蓄積してできることがわかっています。βアミロイドは、アミロイド前駆体タンパク(APP)の一部が酵素によって切断されてできるものです。

 しかし、このAPPは正常な人にも存在していますし、それが切断されてβアミロイドができるのも普通のことです。ですから、老人斑自体の形成は、高齢になればほとんどの人にある程度は見られるもので、早い人の場合、四十代頃から出てくることもあります。

 では、正常な人とアルツハイマー型痴呆患者ではいったい何か違うのでしょうか。その違いはAPPが切断されるときに作用する酵素にあります。

 APPを切断する酵素はセクレターゼと呼ばれ、a型、β型、ア型の三種類が発見されています。このうち、a型が作用した場合は何も問題がありません。しかし、β型やy型が作用したときにできるβアミロイドは水に溶けにくい性質があり、周囲の体液に溶けないまま脳内に蓄積し、さらに重合して塊を形成しやすくなります。これが老人斑です。すなわち、アルツハイマー型痴呆では、何らかの原因でβ型あるいはア型のセクレターゼが作用してしまうのです。その結果、アルツハイマー型痴呆では非常に多くの老人斑が形成されてしまうことになります。

 アルツハイマー型痴呆の脳にはもう一つ特徴があります。それは「神経原線維変化」と呼ばれるもので、タウタンパク質の異常です。神経細胞からは樹状突起と呼ばれる足のようなものがたくさん出ていますが、この突起には微小管と呼ばれる器官があります。微小管は、神経伝達に必要な物質などを運ぶときに重要な役割を果たす管ですが、その構造を支えているのがタウタンパクです。

 ところがアルツハイマー型痴呆では、ある酵素によってタウタンパクが異常にリン酸化され、本来の場所から離れて凝集するようになります。そのために、微小管を支えていた構造が壊れてしまうのです。そうして微小管が崩れ、結果として神経細胞が脱落・変性するようになります。

 これも、健康な人でも年齢をとるにつれてある程度は見られる変化ですが、健康人の場合はその変化が出現する場所が主に大脳辺縁系にある海馬であるのに対し、アルツハイマー型痴呆では大脳皮質全体にまで及ぶとされています。