中等度、重度のアルツハイマー型痴呆とは
症状が中等度にまで進行すると、記憶障害が進展し、新しいことを記憶できないのはもちろん、過去のことも部分的に思い出せなくなります。そのために過去と現在が入り混じって混乱してきます。
見当識の障害も進み、時間だけでなく場所もわからなくなります。慣れない場所や家から少し離れた場所になると道に迷うようになります。人の顔は覚えていますが、誰だかわかりません。また、二桁の数字の計算ができなくなってきます。
日常においては、徘徊や、食事の後にまた食べるといった行動が見られるようになります。大声をあげたり、暴力をふるったりすることもあります。急に泣いたり怒ったりするような感情の変化や多幸感(一日中、理由もないのに幸せを感じているかのように笑っていたりすること)もこの時期に見られます。
簡単な会話はまだ何とかできますが、勝手な作り話(作話)やつじつまの合わないことを一人でぶつぶつ言うこと(独語)、鏡に映った自分に話しかけたり物を渡そうとしたりすること(鏡現象)もあります。
着替え、食事、洗濯、掃除などのような日常の習慣的な行為が一人でできなくなり、入浴を拒否するようになります。車の運転もできなくなります。また失禁も見られるようになり、介助を要する状態が出てきます。
この時期の介助は、実際に手を下すべきことはまだ一部ですが、行動や感情の異常が目立ってくるという意味での困難さがあります。
さらに、重度のアルツハイマー型痴呆では、新しいことはまったく記憶できなくなり、過去の記憶も断片だけになり、ばらばらでつながりがなくなります。一緒に住んでいる人の顔だけならわかるという状態から、次第にそれもわからなくなります。
日常的な動作ができなくなり、文字が書けない、箸が使えない、衣服を着ることができない、入浴の手順がわからない、トイレが正しく使えないといった状態が見られるようになります。
歩行の速度が遅く小刻みになり、やがて歩けなくなって、最後は寝たきりになります。時計が読めなくなり、一桁の計算もできなくなります。
表情は非常に乏しくなりますが、泣いたり笑ったりすることはあります。意味のある言葉は「はい」「いいえ」「わかりました」など、数種類しか言わなくなり、ぼそぼそと独り言を口にするだけか、あるいは何も言わなくなります。しかし、外からの刺激に対して声を出すことはあります。注意力が欠如し事故に遭う可能性もあるため目が離せませんし、失禁も常にあるので、完全な介護が必要となります。
『快老薬品』酒井和夫著より