痴呆の始まりの兆候

 

 初期の初期をより具体的にどのようにとらえるべきでしょうか。

 アルツハイマー型痴呆の初期の初期とは、見落としてしまうような小さな記憶障害だけがあって、その他の認知障害がまだ出ていない段階のことを指しています。

 私か考えるには、これは本人が気づく段階です。家族やほかの人が気づく段階というのは初期の初期ではなく、すでに初期から中期に入っていることが多いと思われます。しかし、親の欲目という言葉があるように、本人がこの段階でたとえ気づいていても、家族としては、それを痴呆の始まりとは考えにくい(考えたくない)ものです。

 ある地域での調査によると、自覚的に記憶障害を訴えた人だちと訴えなかった人たちを四年後に比べたところ、自覚があった人たちのほうにアルツハイマー型痴呆を発症した人が多かったということです。アメリカなどでは、患者さんが自分自身で気づき、自分で医 療機関を訪れ、自分で医師から説明を受けるといった状況もあります。そこで、そのような視点から、私か考えているいくつかのチェックポイントを次に記しておきます。

アルツハイマー型痴呆の「初期の初期」チェックリスト」

 一緒に暮らしている妻や夫の名が一瞬思い出せないことがある

 一緒に暮らす孫の名が覚えられない(あるいは一瞬思い出せなくなる)

 ・今日の朝食に何を食べたかが思い出せない

 ・最近、親しい友人との約束をうっかり忘れることがある

 一瞬、言葉が出てこなぐなることがある

 ・最近、自分で何か変だと感じるが、アルコールを飲むとそれがひどくなる

 一瞬変だと感じた、一瞬思い出せなかった、というこの「一瞬」が早期発見のカギになります。一瞬のことではなく、常にはっきりと変であれば、もう「初期の初期」ではないからです。この一瞬変だと感じる程度の時期に医療機関を訪れ、適切な診断を受けることがすすめられます。

 アメリカでは、このように初期の初期と思われる人たちも同様にアルツハイマー型痴呆としてしまうのは酷であるとして、「将来アルツハイマー型痴呆となるリスクの高い人(マイルドーコグニティブーインベアメント=MCI)」と分類し、この段階からのアリセプトの投与が検討されはじめています。

『快老薬品』酒井和夫著より