非薬物療法としての心理療法の効果

 

 根治療法はまだないとしても、訓練やリハビリテーションによって残された能力を少しでも活用できるようにし、またその結果として痴呆症状の進行が多少でも抑えられれば、患者さんにとっても介護者にとってもよいことです。

 現在、さまざまな心理療法が行われ、その可能性が示されています。その一つは「回想法」と呼ばれるものです。これは、短期記憶が失われた段階の患者さんから過去の記憶を引き出す方法です。そうして引き出された記憶に共感しつつ働きかけることで心を安定させるのが目的です。

 六十五歳以降に発症する老年期アルツハイマー型痴呆の患者さんは、こうした方法で心の安定が得られれば、痴呆症状の進展を遅らせることができる例が多いと言われています。

 また「リアリティーオリエンテーション」という方法もあります。これは、残された機能に働きかけるものです。名前や年齢、職業、家族関係などに関する個人的な質問から始まり、今いる場所や日付、また方角や物の名前などを聞いていきます。これによって見当識の障害、記憶や思考の間違いなどが改善し、現実の認識が深まり、不安などが軽減する可能性があると言われています。

 さらに、「音楽療法」によって、過去のことが思い出されるようになったり、情動の不安定さが改善する可能性が考えられています。脳波が改善するとの報告もあります。実際にモーツァルトの曲が奏効したという報告もあります。また、動物との接触を利用する「動物介在療法」によって患者さんの表情がよくなったとの報告もあります。

 このほかにも、会話やゲーム、歌唱、絵画、畑仕事、寺社仏閣への参拝など、個人あるいはグループで行うさまざまな方法が試みられ、それぞれに症状の改善が認められたことが報告されています。