介護の四原則

 

 竹内孝仁教授(日本医科大学第二病院リハビリテーションセンター)は介護の原則として次のようなことを提案しています。

 第一は、「ともにあること」です。これは、患者さんを異常な人とみなして第三者的な態度で接するのではなく、その不安やとまどいなどに共感をもつことです。たとえば、人間の言葉も行動も理解できない動物でさえ、人間の優しい気持ちなどはきちんとわかります。そう考えると、たとえ認知障害はあっても、同じ人間どうしなのですから、相手に自分に対する共感があるかどうかは感じ取ることができるはずです。

 患者さんの症状には孤独感が関係すると言われています。実際、患者さんの世界につきあって行動すれば症状が改善することもあり、そのような理解者がいる患者さんは、障害はあっても落ち着いていることが多いということです。

 第二は、「安定した関係」です。これは第一の項目とともに、一般の人にも通じることですが、特に痴呆の患者さんはなじみの関係があると安定していられます。ですから、施設に入った場合でも、世話をしてくれる担当者が特定の人で、患者さんと相性がよく、またずっとその関係が続くことが望ましいのです。

 第三は、「異常な行動の理由を知る」ことです。痴呆の患者さんは理解できないさまざまな行動をとりますが、その人の歩んできた人生における職業や習慣などを知ると、そうした行動の理由を推測できる場合があります。

 第四は、「個々の異常行動への対処」です。前項にあるように、異常な行動の理由やきっかけを知り、そのことを理解できれば、それにどのように対処すべきかもおのずとわかってきます。目の前に起こっている現象ではなく、その背後にあるものに働きかけることが役に立ちます。

 たとえば、物を盗まれたと思い込む妄想は、なじみのヘルパーさんが交代した不安から起こることがあります。また、現実感が薄れているようなとき、皿洗いなどの実際の作業をすることが現実に戻るきっかけとなった例や、徘徊につきあったら徘徊が治まったという例もあるということです。