ルネッサンスからはラテン語が流れ込む

 

 これに加えて、③のラテン語も語彙の二重性を補強する。 16~17世紀のイギリスでは文芸復興、ノレネッサンスの時代であった。「復興」の対象は主として古典文学や芸術への関心であり、また科学、医学は急速な進展をみせた。新しい概念および発明品を伝える語を求めて外国語からの借用が必要となり、とくに直接、間接にラテン語が大幅に英語に注入された。当時英語に借用されたラテン語をいくつか例示しておこう。absurd-ity(不合理)、encyclopedia (百科辞典)、obstruction (障害)、pneumonia (肺炎)、temperature (温度)、vacuum(真空)など。いずれも抽象的な学術語ばかりである。

 おまけに、すでにフランス語から英語に入った語にもラテン語的な装いをこらしたものがある。たとえば、「冒険」を意味するadventure。②の時期にフランス語から英語に入ったのはaventure。現代のフランス語はavenlure(アヴァンチュール)と当時とおなじつづり字だ。しかし、この語は15~16世紀にいたると、ラテン語に擬してadventureとっづり字にdを加えることになる。同様に「絵」を意味する②の語はpeynture。ラテン語の影響で今日のpictureが誕生した。

 ラテン語から取り入れられた③の外来語を①の本来語と対比して効果的に用いた作家としては、シェイクスピアの右に出るものはない。多音節の外来語をこれみよがしにひけらかす教師(schoolmaster)は、シェイクスピア喜劇には欠かせない役柄であるが、ここでは悲劇「オセロ」の2幕3場から2つ例を引いておく。

Cassio: She's a most exquisite?lady. Iago: And, I'll warrant her, full of game.

『英語表現を磨く』豊田昌倫著より