ゲルマン系言語の音節について

 

 サクソン語などゲルマン系の言語では、原則的に第1音節に強勢をおくところから、restaurantもこの規則にしたがったものであろう。外来語が英語に取り入れられて同化する過程の一端が、[restara:]- [restarこ)nt]という発音の変化にうかがえる。

 automobile (自動車)も同様である。「自動車」自体がもの珍しい時期にあっては、この長い語はエキソテイツクなひびきをもっていたはずだ。ちょうどcrocodile(ワニ)とかhippopotamus (カバ)のように。 しかし、一般大衆に普及して日常生活に欠かせないものとなれば、短くて真に英語的な語が必要になってくる。

 automobileがフランス語から英語に入ったのは、1886年のこと。しかし、早くも1895年にmotor-carが使用され、翌年の1896年にはcarという短縮形が用いられるようになる。このようにautomobileがcarに取って代わられた理由としては、語の長さに加えて発音が不明確であった点も無視できない。可能性としては第1音節、第3音節、第4音節に強勢がおかれうるが、現在ではautomobileと最初の音節に強勢をおくのが有力である。

 garage (ガレージ)が英語に入ったのは、20世紀の初頭。英語化されてまだ間がないという事実は、その不安定な発音によって裏書きされる。『ロングマン発音辞典』によれば、現在garageは5種類の発音、をもつという。強勢のおかれる音節も第1音節、あるいはフランス語式の第2音節と一定せず、イギリスでは第1および第2音節、アメリカでは第2音節にかぎられるという。restaurantやautomobileのように、この語もいずれはgarageと第1音節を強める傾向を見せるのだろうか。

 実際、英米人にとっても発音の不明確な語が少なくない。たとえば、belles lettres (純文学)、denouement(大団円)、hegemony (支配権)、mot juste (適語)、prece-dent (先例)などの抽象語。フランス語式に発音するのはいささか気取った印象を与えるし、かといって英語式の発音ではわかってもらえるかどうか、とちゅうちょせざるをえない。その結果、こうした語は少なくとも口語では避けられて、頻度のきわめて低い語、ごく周辺的な語にとどまるであろう。

『英語表現を磨く』豊田昌倫著より