冷たくひびく外来語
1つ映画から実例をご紹介しよう。『ローマの休日』の後半、ローマでアメリカの新聞記者、ショーとの「休日」を楽しんだアン王女は、国に対する責任を感じて大使館へもどる決心をする。次に引くのは、大使館の王女の寝室の場面。伯爵夫人、大使、将軍が居ならぶ前での対話である。
大使の詰問に対する王女の答えはきわめて短くそっけない。They are not. l was indisposed. l am better.といずれも単文での応答。このように単文で最小限の情報しか与えない文は、話者が不機嫌であり、会話を打ち切りたいと考えていることの指標とうけとられる。そして問題のindisposed。形式ばって冷たくひびく外来語の使用に注目したい。
加えて、オードリー・ヘップバーンの扮する王女のイントネーションは、例3(a)のように中位から低く下降する。
ふつうの会話では(b)のように、音域の上部から下降するピッチが用いられるのが原則であり、このイントネーションからは話者の温か昧のある態度が伝わってくる。一方、音域の中位から下降するピッチは、冷たく相手に距離をおいた話し手の態度を示唆するといってよい。 。。
ローマでショーと時間をすごすときの王女のはずむようなことばづかいと大使館における王女の沈んだ語調。イントネーションの点からもその明暗は検証できそうだ。
外来語の効用
indisposedの名詞形はindispositionであるが、私がこの語を実際に聞いたのは劇場でのアナウンスメントにおいてである。演劇などの出演者が病気のためやむなく休演とのアナウンスでは、
Owing to indisposition、Mark Richardson's part will be played by Peter Schneider tonight.
(急病のため、マークリチャードソンの役は、今晩ピーター・シュナイダーに代わります)のようにindispositionを用いるのが慣例である。本来語のillnessよりも外来語のindispositionのほうが、重々し
『英語表現を磨く』豊田昌倫著より