医療の技術革新がコストを増やす理由


鶏肉や車屋コンピュータは、技術革新がコストを大きく引き下げる力になりましたが、医療政策の専門家のほとんどは高度医療技術が過剰な医療コストを生む原因の最たるものであると信じて疑いません。ほかの先進国と比べて、米国では高度医療技術がより豊富に使われているというデータを挙げる専門家もいます。また、医療における技術革新は本質的にコスト増につながるものであり、すべての無駄や非効率が改められても、医療技術のせいで医療費の上昇が続くだろうと予測する専門家もします。

技術の進歩が医療のコストを押し上げるという見方は、近代産業がたどった過程と矛盾するものです。たいていの場合、技術革新は相対的なコストを下げてきました。もっと正確に言えば、コストより収入を増やしてきました。産業革命は祖先の多くを貧困から救い出し、巨大な新しい中産階級へと昇格させましたが、その原動力になったのは技術革新でした。私たちは進歩し続ける技術の恩恵を今日でも受けています。それによって、同じ財貨の生産に要する労働量が減り、誰もが簡単に製品やサービスを利用できるようになり、私たちの収入に占めるそうした財貨の購入コストの比率を引き下げました。翻訳業界もこれと全く同じプロセスを歩んできました。たとえば、パソコンとインターネットの登場により1日の訳出量は一気に増えたのです。ではなぜ、医療技術のみが例外となるのでしょうか? 鶏肉やコンピュータ、翻訳が技術進歩のゆえに品質が良くなり、価格が相対的に安くなり、豊富に手に入るようになったのであれば、どうして医学分野においても同様の成果を挙げることができなかったのでしょうか?

その答えは、多くの新しい医療技術が医療コストを下げてきた一方で、高度医療設備などあってもほとんど利用しないような医療機関までも含めて猫も杓子もそうした設備を導入したために全体のコストが上がってしまったということです。例えば、パソコンの普及が進んで、すべての人が数台ずつ持っているとしましょう。いくら高性能の機種でも、それをあまりにもたくさんの人が持ったのでは、全体としてパソコンにかかるコストは上がってしまうからコストダウン効果はかなり薄まります。