医療業界の非価格競争について

臓器移植のため長期にわたって海外に在住する例、より高度な医療を求めて有名大学の付属病院に入院する例があり、医療サービス市場は広域化・国際化しています。しかし、多くの患者は居住地とその周辺の医療機関で受診しています。一般に、市区町村を一次医療圏、中核都市とその周辺の2~3町村で構成する地域を二次医療圏といいます。二次医療圏の中心的存在が地域医療支援病院です。

医療サービス市場は医療圏とほぼ同義ですが、医療圏には相当数の医療機関が存在しており独占状態ではありません。医療圏内には多数の医療機関数が存在しますが、その中には料金規制がなければ価格支配力を発揮するであろうと思われる大病院が存在しており、完全競争市場とみることも適切ではありません。医療市場は完全競争でもなければ独占でもなく、かなり多数の供給者がしのぎを削る独占的競争状態にあります。

医療機関は非営利組織ではあるが経営体であり、収益に無関心ではありません。医療機関がより多くの収益を得るためにはより多くの患者を寄せ集める必要があります。患者を引き寄せる最も手っ取り早い方法は値引きです。しかし、保険医療費は公定料金であるから値引きはできず、医療機関は料金以外の手段で患者を獲得しなければなりません。

日本の医療機関は機能が分化されておらず、これがフリー・アクセスを可能にしている一つの要因です。しかし、近年の大病院志向は機能未分化のもとでもサービスの差別化が進行していることを示唆しているように思われます。

差別化とは物品・サービスの品質、性能といった客観的な差異とともに、企業イメージあるいは商品イメージといった主観的な差異によって引き起こされます。家電産業、自動車産業を例とすると、専門家にはメーカー間の品質・性能上の微妙な差を指摘できるのかもしれません。しかし、素人には各社の製品はほぼ同性能・同品質に見え、購入に際してはCMなどで植え付けられた企業や商品のイメージが決定的な役割を果たしているように思われます。

では医療サービスは何によって差別化されているのでしょうか。まず考えられるのは設備です。患者は、医療機器を備えた病院は機器をもたない病院よりも病気の見落としが少なく、前者が格段に優れていると考えるでしょう。次いで考えられるのは使用医薬品です。患者は医薬品の種類が豊富であるほど自分に最適な薬を処方してくれると期待するでしょう。そして何よりも患者が重視するのは、医師の腕前です。

では医師の腕はどのような基準で評価されるでしょうか。患者は、医学研究者であり医学教育者である教授陣も臨床を行っている大学病院を最高位に置いているでしょう。第2位は、大学病院の勤務医でしょう。勤務医の中では、医療法人立病院よりも公益法人立病院の勤務医に高い評価を与えているのではないでしょうか。そして、軽症の患者を扱い最新医学に接する機会の少ない開業医を最も低く位置づけていると推測されます。この推測は開業医には不満でしょうが、十分に正しいと思います。この逆の順序付けがなされているとしたら、医学部教授陣の医学水準が最も低いことになり、由々しき一大事です。