1個の造血幹細胞の寿命と自己複製能


1個の造血幹細胞を致死量放射線照射したマウスに移植し、造血幹細胞活性を持つ細胞(CRU)がレシピエント骨髄中でどのくらい増幅されたかを二次移植の際の限界希釈法(limiting dilution assay:LDA)によって測定すると、1個の造血幹細胞から約500個もの造血幹細胞(CRU)が産生されていることが明らかとなりました。また、増幅された500個のCRUのもつ造血幹細胞活性の総和は、もとの1個の造血幹細胞のもっていた活性を大きく上回っていました。

別の研究として、ある医学チームは加齢マウス骨髄中の造血幹細胞はより多くの分裂を行っているはずであると考え、造血幹細胞の寿命や自己複製についての知見を得ることを試みました。その結果、加齢マウス骨髄中には骨髄球系、B細胞、T細胞を産生で切る造血幹細胞が存在しており、その数や約2倍に増加していることが明らかになりました。また、生体マウスにBrdUを経口投与すると、BrdUを取り込んだCD34 KSL細胞が検出されることから、この細胞は分裂後にも同じ表現型を持つ細胞を産生していることがわかりました。

これらの結果から考えると、造血幹細胞は表現型の上では自己複製をしているが、能力的には低下している造血幹細胞を産生し続けているのではないかと考えられました。これにより、加齢マウスでは、造血幹細胞活性が約2倍に増加するという現象が観察されたのではないかと考えられています。造血幹細胞が数を増やしながら成熟血液細胞を産生するためには、1個の細胞から2個の造血幹細胞が産生されるような対照的な自己複製が起きる必要があると同時に、分裂してできた片方の細胞が前駆細胞になるような非対称分裂が起きる必要があります。細胞によって対照的に分裂を行ったり、非対称分裂を行うメカニズムは明らかにされていませんが、解明されれば造血幹細胞の分裂回数の限界や分化の機構などの非常に重要な情報が得られると思われ、今後が期待されます。