法医学分野の死因診断について

法医学分野のAiで扱う遺体は、臨床医学や病理学で扱う遺体とは異なります。まず、死後経過時間が長いという特徴があります。法医学が扱う遺体はしばしば腐敗しており、なかにはミイラ化したものや白骨化したものもあります。

2点目は、遺体には犯罪関連の可能性があり、その場合は遺体そのものが事件の証拠で、鑑定の対象になる点です。撮影の際、遺体に手を加え、犯罪の証拠に変化を生じさせてはなりません。たとえば遺体を移動させる際に死後硬直を緩める、付着した血液をふき取るなどの行為です。体表面の擦過傷打撲傷など死因以外の損傷や遺体に付随する物品も、重要な証拠です。一般患者のCTを撮る際は、無用な被曝を避けるため、症状のある部位のみを撮りますが、Aiでは死者は症状を訴えないため、病変や損傷、証拠部位がわかりません。また被ばくの心配もしなくてよいため全身撮影を基本とします。

法医学分野では、主目的の死因診断のほかにもAiはさまざまな目的を有します。法医学においてもAiの第一の目的は死因診断です。Aiが得意とする外傷死事例を取り上げます。

高所転落事例のAi

高層ビルの下で女性が死亡していた。身元不明で、事件性が否定できず司法解剖となった。解剖前に全身CT撮影をした。専用ソフトウエア(アクエリアスネット、テラリコン社)を用い、デジタル処理で骨と歯だけにした3D画像では、後頭部の頭蓋骨の粉砕骨折がわかり、打撲部位は一目瞭然。CT画像を見ながら解剖を行った。頭皮に切開を入れた後、骨膜を剥離し頭蓋骨を露出、骨折を確認する。切開範囲では、CT画像と同様の骨折線を確認できた。解剖ではCTのように軟部組織を取り除けないので、すべての骨折を証明できなかった。解剖によって粉砕骨折の骨片は元の位置からずれたものもあった。移動した骨片を元の位置に戻し、復元するのに多大な努力を要した。