リンパ球系共通前駆細胞(IL-7R陽性、Sca-1弱陽性、c-Kit弱陽性、Thy-1陰性の細胞群)の分化能


X連鎖重症複合免疫不全症候群(X-SCID)の病態が、common cytokine receptor γ chain(γc)の変異によるインターロイキン7レセプター(IL-7R)の機能異常にあることが証明されています。IL-7Rは、IL-7Rα鎖およびγc鎖から構成されるヘテロダイマーです。γcノックアウトマウスなどのIL-7Rからのシグナルを欠損したマウスのいずれにおいても、、αβT、γδT、およびB細胞の分化が著しく障害されます。

このようにIL-7がT細胞、B細胞の初期文化に必要であることから、IL-7Rを発現している未分化な骨髄細胞中に、リンパ球系共通前駆細胞(common lymphoid progenitor:CLP)を同定する研究が行われました。同定されたリンパ球系共通前駆細胞は、IL-7R陽性、Sca-1弱陽性、c-Kit弱陽性、Thy-1陰性の細胞群でした。この細胞群を同系マウスに移植すると、T、B、NK細胞のみに分化し、骨髄系への分化は全く認められませんでした。

いずれのリンパ球系細胞も、移植後4~6週を頂点として次第に消失したことから、この細胞群は自己再生能をもたない前駆細胞と定義されました。この細胞群の増殖力は極めて高く、1000個のリンパ球系胸痛前駆細胞からそれぞれ約1~2×100000000個ののT細胞およびB細胞が分化するのが確認されました。

この細胞群は、IL-7、steel factor、fit-3リガンドの存在下にメチルセルロース上で培養すると3日目にはリンパ芽球からなるコロニーを形成しました。このコロニー形成細胞の一部を同系マウスの胸腺に移植するとT細胞へ分化し、残りの培養をつづけた細胞はB前駆細胞に分化しました。異常から、この細胞群の中に細胞1個から少なくともT、B両系統に分化しうる細胞が存在することが明らかとなりました。すなわち、リンパ球分化の初期段階として、造血幹細胞は骨髄系への分化能を失い、全リンパ球共通の前駆細胞段階にコミットしうることが証明されました。

ヒトにおいても、マウスのリンパ球系前駆細胞に類似の細胞集団が報告されています。ヒトCD34陽性CD38陽性CD10陽性細胞群は骨髄系への分化能をほとんど有さず、SCID-huマウスにおいてT、B細胞に分化し、この中の1個の細胞は少なくともB、NK、樹状細胞に同時に分化できるといいます。これらの細胞の多くがIL-7R陽性、c-kit陽性のマウスリンパ球系共通前駆細胞と類似の細胞群に属することが確認されており、この細胞群は、ヒトリンパ球系共通前駆細胞であると考えられています。