通訳を利用する際のコツ

 

 通訳としての私の経験から、通訳を上手に使うコツをふたつみっつ書いておこう。

 話し手は、ゆっくりと、わかりやすい言葉で話してほしい。意味不明瞭な言葉を延々と繰り返す人がいるが、こういうのは論外。

 それから、話を区切る単位について。通訳を使い慣れている人なら心得ているものだが、たてつづけに5、6分も話してから「さあ通訳してください」と言うと、通訳をするほうはたいへんだ。いくらメモをとっているといっても、通訳のメモはたいて≒速記に近いものに過ぎない。がっての私のように不慣れな通訳の場合は特に、少し時間が経つともう自分でも何を書いたのか忘れてしまう。

 逆に、文をひとつ話すたびに「さあ、今言ったことを通訳してください」と言われても困ってしまう。話し手の言わんとしているところがほとんど見えないまま、バッサフな言葉だけを通訳するのは無理だ。理想的には、一段落(文にして2、3から5、6個)くらいまとめて話してから通訳させてもらえるとありかたい。

 また先はども書いたように、良い通訳をするために「予習」は不可欠である。これはプロもアマも同じことだ。「プロなんだから、そんなものはなくてもその場で何とかできるだろう」と誤解している向きもよくあるようだが、それは違う。通訳が予習できるような準備資料や参考資料があれば、それを渡しておくか、その資料の入手先を教えてあげるという配慮をしてもらえると、通訳にあたる側でも怠りなく準備ができるし、従って良い仕事ができる。

 幸いなことに、私を通訳として使っていた井深さんは、ここに書いたようなことはほとんど全部心得ている人だった。