院内感染の経路:小児患者への感染予防策


 院内感染とは、病院内で患者・医療従事者に感染症が伝播することをいう。

 近年のMRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、 VISA (バンコマイシン中等度耐性黄色ブドウ球菌)、多剤耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌VRE

 (バンコマイシン耐性腸球菌)、 PISP (ペニシリン中等度耐性肺炎双球菌)、多剤耐性結核菌などの出現は、抗生物質治療のみでは感染を制御できない時代になったことを意味しており、組織立った感染制御方法を日常的に行うことの重要性を再認識する必要がある。

 院内感染対策としては、ユニバーサルプレコーションの概念を踏まえた、アメリカ合衆国疾病管理予防センター(CDC)による標準予防策と病原体の特徴を考えた感染経路別予防策が非常に参考になる。これを参考にして、各医療施設の実情を踏まえた院内感染対策がとられるべきであろう。CDCによる標準予防策は、すべての入院患者に適応されるべきもので、血液を含むすべての体液とそれに汚染されたものへの対策と傷のある皮膚および粘膜に対する対策などからなる。流水による手洗いの徹底と手袋の適切な使用、マスク・ガウンなどの適切な使用、体液で汚染された器具・リネン類などの適切な処理、患者の配置、針刺事故の具体的対策(リキャップしない、注射針を外さずに処置現場で専用容器に注射器とともに廃棄する、など)などからなる。

1)院内感染対策委員会と感染制御医師・看護師の役割

 院内感染の防止・制御対策を組織的・統一的に行うために院内感染対策委員会が設置される。業務内容としては、①感染症発生状況、細菌分離状況、伝播経路、治療状況の調査と広報、②抗菌剤の使用基準・選択基準の設定、③消毒、廃棄方法、医療機器、空調設備の検討と整備、④スタッフへの情報提供、啓蒙、指導、などが挙げられる。感染制御医師・看護師は病院全体を巡回し、主治医や病棟スタッフと協議・指導を行う。

2)感染経路と隔離基準

 過去の事例から経験的に判断されていることが多い。また、 CDC(米国)の勧告では「院内感染対策の実行への協力が期待できない乳幼児・小児では、伝染しうる疾患はすべて個室管理が望ましい」としている。隔離に際しては患者の療養生活が損なわれないように留意する。

 感染経路は、下記のa)~e)に分類される。

a)空気感染:一定期間空気中を浮遊し続けるので、病棟内であれば陰圧空調の個室、可能なら専用病棟への隔離を行う。代表的な病原体は、結核菌、麻疹ウイルス、水痘ウイルスである。また、皮膚の鱗屑についたコアブラーゼ陰性ブドウ球菌やリネン類、包帯に付着した連鎖球菌、ブドウ球菌も空気中を浮遊しうる。ネブライザー、加湿器も感染源となりうるので注意する。

b)飛沫感染:咳嗽によって周囲に飛散する。個室隔離、もしくは1m以上離れる環境をつくる。代表的な病原体は、インフルエンザ桿菌、ナイセリア菌、ジフテリア菌、マイコプラズマ、百日咳菌、ペスト菌、溶連菌やアデノウイルス、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、パルボウイルスB19、風疹ウイルスである。

c)接触感染:糞便、鼻汁、眼脂、皮膚の接触などを介して直接あるいは間接的(汚染された器具や手袋などによる)に伝播する。手洗い、リネン類の処理などを徹底する(494頁『CDCガイドライン』参照)。代表的な病原体は、クロストリジウムディフィシル、べ口毒素産生大腸菌赤痢菌、A型肝炎ウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルス、単純ヘルペスウイルス、伝染性膿疱疹、大きな蜂窩織炎、シラミ、疥癬、ブドウ球菌皮膚感染症帯状疱疹(重症者や免疫不全患者)、結膜炎、ウイルス性出血熱である。

d)一般媒介物感染:汚染された食物、水、薬剤、装置などによって伝播する。代表は、レジオネラ、リステリア、ベロ毒素産生大腸菌などである。対策は、滅菌や消毒である。


e)昆虫や動物による媒介感染:カ、ハエ、ネズミ、イヌ、ネコ、小鳥などにより伝搬する。力による日本脳炎マラリアなど、シラミやつつが虫などによるリケッチア症、鳥類によるオウム病(クラミジア感染)、イヌ・ネコ・ブタなどによるトキソプラズマ症、イヌ・ネコ・アライグマ・キツネ などによる狂犬病ウイルスが代表例である。対策は、害虫駆除やペットとして飼う動物の予防接種と健康管理である。

3)おもな感染症の伝染性の高い時期

a)麻疹:固有の発疹(前駆疹ではなく)が出現して4日間(免疫不全状態ではもっと長い)。麻疹患者に接触した児は、接触後8~12日が潜伏期間であり、咳や鼻汁が出現する2日前から伝染力をもつので、接触後6日以降は麻疹患者と同等の感染源としての隔離が必要である。

b)水痘:少なくとも発疹出現後5日間、もしくは水疱が一つでも残っている間。水痘患者に接触した児は、接触後10~21日(水痘高力価免疫グロブリン製剤を投与した場合は28日)が潜伏期間であり、発疹出現の2日前から伝染力をもつので、接触後8日以降は水痘患者と同等の感染源としての隔離が必要である。

c)流行性耳下腺炎:唾液腺が腫脹して9日間。患者に接触した児は、接触後12~25日が潜伏期間であり、症状出現の2日前から伝染力をもつので、接触後10日以降は患者と同等の感染源としての隔離が必要である。感染しても1/3程度は唾液腺の腫脹がみられない(不顕性感染)。

d)風疹:発疹出現後7~14日間。風疹患者に接触した児は、接触後14~21日が潜伏期間であり、発疹出現の2~7日前から伝染力をもつので、接触後7日以降は風疹患者と同等の感染源としての隔離が必要である。25~50%が不顕性感染となる。

e)百日咳:咳嗽出現後3週間ごろまで。カタル期がもっとも伝染力が強く、次第に弱まる。有効な抗生剤が投与されている場合には伝染力が弱まり、普通は治療開始後5日程度で百日咳菌は分離されなくなる。接触後6~20日が潜伏期間である。年長児では「咳が長引く」だけの非典型的な病像を呈する。

f)A型肝炎:黄疸が出現して1週間後まで。発熱や全身倦怠感などの症状が出る1~2週間前からウイルスを排出する。潜伏期間は15~50日である。

g)パルボウイルスB19型(伝染歐紅斑):通常は、発疹が出現する前の呼吸器症状がみられる時期にウイルスを排出するが、発疹出現後は感染源にはならない。潜伏期間は4~14日で、発疹出現は感染後2~3週間である。


ナーシングポイント

Oすべての入院患児の予防接種歴、感染症既往歴、保育園や家庭内などでの感染症との接触状況を聴取することが必要である。

O医療従事者の健康管理が重要である。予防接種歴や感染症既往暦の確認は、医療人として当然すべきことである。

O患者に接する前後の手洗い及び手袋の適切な使用が重要である。手洗いの際には、掌や手背のような洗いやすいところだけではなく、指先や指の間、手首などを意識してよく擦ることを習慣づける。また、手荒れは細菌の繁殖の場となるのでスキンケアを心がける。荒れた場合は手袋を使用する。ベースンは、使用している消毒液が無効な病原体の「ため池」となるので止める。流水を使って病原体を物理的に洗い流すのが基本である。

O血液・体液・分泌物・排泄物・障害のある皮膚・粘膜を介して伝播する病原体の有無はあらかじめわかっていないことが多いので、「これらのもののすべてが感染源となりうる」とみなして対応する(ユニバーサルプレコーション)。

○針刺事故の多くが、針先に再びキャップをかぶせようとする操作の際に起こるので、ノンリキャップ(キャップをせずに廃棄する)を原則とする。また、手渡し操作も危険である。針などを廃棄する固い容器を数多く用意しておき、使用者が直接その容器に捨てるように習慣づける。

O静脈カテーテル留置・外科処置・気管チューブや膀胱カテーテルの挿入は、皮膚・粘膜・気道などの生理的な感染防御機構を侵すので、感染を起こしやすくする。入院患者のほとんどに静脈内持続点滴が行われるので、輸液のボトル・輸液セット・三方活栓などは患者の体内に直結していることを常に念頭に置いて操作する。静脈カテーテル刺人部位は液漏れによる腫脹だけでなく、発赤や疼痛といった静脈炎の有無についても注意する。