拒食症患者の看護ポイント


○重症度により治療法は色々あるので、主治医の治療計画を把握することが大切である。カンファレンスを適宜行い、意思統一をはかって看護師間でも対応のばらつきがないようにする。病気のステージや治療法によっては、多くの人が関与しない方がよい場合がある。ちょっとした声かけや、かかわりが治療のさまたげになるばかりか、病気を悪化させる場合がある。主治医の先生と患者本人しか知らないことを看護師が知っていたということで、プライバシーがないと感じ、それ以後口を閉ざしてしまうことがある。信頼関係を気づく事が大切である。また、ナースセンターでの申し送りの時などにも注意が必要である。ほかの患者さんへ知れたり、自分のことを言って笑ったなど、強迫的性格とヒステリー性格がほとんどの症例にあるので注意を要する。

○拒食症に対する理解を深め、家族を焦らせないように援助し、本人に病気であるという自覚を促してゆくことが大切である。同時に、患児の食べられる状態を受容する態度で接して、患児が何でも話しができる雰囲気をつくり食べる事を強制しない。

O体重・食事摂取量を定期的に測定することが大切であるが、食事量や体重を偽ることがある。このような場合でも無理やりに体重計に乗せたり食事中に訪室してはならない。血圧と脈拍で症状の改善・悪化は予想が可能である。体重は変化しなくても、 拒食症が改善傾向にあれば、まず体温が少しずつ上昇してゆく(熱型表が大切である)。このようなことは、患者には情報として入れないほうがよい(摩擦などで体温計の熱を操作することがある)。身体的合併症として、以下のものが重症度により出現してくるので、適宜チェックをしていくことが必要である。

 極端な体重減少、無月経、低体温、低血圧、便秘、浮腫、筋力低下、徐脈、不整脈、心筋障害、低アルカリホスファターゼ血症、骨粗鬆症、骨折、消化管機能の低下(むかつき、萎縮性胃炎、胃拡張、胃穿孔)、上腸開膜動脈症候群、う歯、歯肉障害(吐くことにより胃酸がエナメル質や歯肉を痛める)、抜毛、皮膚の乾燥・角化、産毛の増加、吐きだこ、皮膚の黄染、体液の酸塩基バランスの障害、ホルモンバランスの障害(T3低下、成長ホルモンの異常高値、高コルチゾール血症)、貧血、白血球減少、血小板減少、低蛋白血症、低カンマグロブリン血症、総コレステロール値の上昇、高力ロチン血症、尿素窒素値上昇、血清カリウム値低下(下痢・嘔吐による)、血清アミラーゼ値上昇、低クロール性アルカローシス、非特異的脳波異常、脳皮質萎縮、基礎代謝の低下

O中心静脈栄養を行っている重症な患者では、ルートの突然の抜去など、思わぬトラブルが生じるので注意が必要である。体重増加に対する恐怖の強い患者は、輸液のラペルの成分などに敏感になっていることもあり、カロリーなどラペルを細工する必要のある場合もある。

○言葉に注意する。外見上ふっくらしてきても[太つかね]などの言葉は禁句である。「顔色がよくなったね」「肌の艶がよくなったね」などの表現とする。全量あるいはほとんど摂取しなかったとしても一品でも摂取していたらほめる。太った、増えた、食べる、食べないなどの言葉は使用しないようにする。楽しく生活ができ、その一部として楽しく食事ができるようになるのが最終目的である。

○パーシング(浄化の感情)に注意する。自分で嘔吐したり、下剤を乱用していないか注意をする。罰する態度をとらず、すみやかにカルテに記載し、主治医に連絡をとる。

○自殺企図などを行う、境界型の人格障害をともなう場合もあるので、変わった行動があればすみやかに主治医に連絡をする。

○神経性食欲不振症の予後不良の因子として、以下の9項目が考えられる。

このような症例は特に要注意である。

 ①発症年齢が遅い   ②罹病期間が長い  ③体重減少が著しい ④初潮発来が遅い   ⑤大食をともなう ⑥食行動の異常(嘔吐、盗み食いなど)を認める ⑦利尿剤を乱用する ⑧ヒステリー性格を有する  ⑨強迫傾向を有する

栄養療法時の注意としては、

 ①長期の飢餓状態のために耐糖能が低下しているところへ、急速に栄養を与えると、高血糖や高血糖性非ケトン性昏睡を起こすので、栄養療法施行初期には注意が必要である。

 ②栄養輸液の合併症は、栄養輸液開始直後から数ヶ月以内にみられる事が多く、低P血症(refeeding syndrome)に注意が必要である。最悪の場合“死”をもたらす。


 対応策として、

①必要カロリー量の1/3から始め、7日間で必要カロリー量まで徐々に増量する。
②総カロリーの2~3割を脂肪にて投与する。
③Pを含む輸液剤を用いる。
④血糖・血清P値を頻回に測定し、低P血症には積極的にPの補充を行う。
⑤栄養輸液開始後しばらくは心拍数、呼吸数をモニターする。

低P血症の症状

①頻脈
不整脈
③低血圧
④多呼吸
⑤呼吸窮血症候群
⑥横紋筋融解
⑦急性腎不全