IBS(過敏性腸症候群)とは


過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome ; IBS)とは、癌や潰瘍、炎症といった器質的な病気(組織や細胞に何らかの異常がある状態)がないにもかかわらず、便通異常(下痢、便秘)や腹部の不快感(腹痛、膨満感、ガス、残便感など)が慢性的に繰り返される病気です。大腸の働きに何らかの問題があって生じる機能性消化管疾患の一つとされています。下痢が主の「下痢型」、便秘が主の「便秘型」、両方が混在した混合型があり、男性は「下痢型」が多いとされます。

しかし、IBSとはどんな病気なのか、実態はほとんどわかっていません。「6か月前から症状があって、3か月前から症状が持続している。その症状とは便通異常と下腹部の不快感、痛みで、排便すると症状が取れる」という定義はあるものの、これも研究者の間で統一性を持たせるために暫定的に作ったもので、これらの数字にはあまり根拠がないといいます。

では、なぜこんなあいまいなものが病気として成立してしまうのでしょうか。それは、この病気が誕生したいきさつが、あいまいだからなんです。

消化器科医は、これまでずっと癌や炎症性腸疾患、潰瘍など器質的な病気を一生懸命診てきました。しかし、これらを治しても症状が改善されない患者や、そもそも検査をしても器質的な病気が見つからない患者がいたのです。そこで、こういう患者を何とかしたいと、IBSという病名をつけて診ることにしたのです。

つまり、IBSは形のある病気を取り除いた、腸肝疾患のいわゆる「病気でない、病気」のようなものなんです。検査しても「特に異常が見つかりません」と、放置されてきた病気だったのです。

病気でない病気だろうが、患者にとっては深刻な症状であるのは間違いありません。ただ、IBSがあいまいだからこそ、受診する側も、それを踏まえて受診する必要があるかもしれません。

病院で最初に受けるのは、炎症反応や潜血反応を確認するための血液検査や便検査などです。

炎症が起きていたり、便に血が混じったりしていたら、大腸がんや大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎クローン病、大腸憩室症などの器質性の病気の可能性が高くなります。場合によっては、大腸内視鏡検査や腹部超音波検査などを受けます。こうした検査でほかの病気を除外し、残ればIBSとなります。腸の過敏性を調べる方法もありますが一般的でなく、実施しているのは大学病院のような研究施設ぐらいです。

皮肉なようですが、IBSがマスコミなどの報道によってにわかに脚光を浴びるようになったことで、かかりつけ医が専門的な検査をせず、重大な病気が放置されたケースも散見されます。まずはIBSのような症状が続くようなら、消化器の専門家を受診してください。