なぜ統合失調症の人は若死にするのか

 統合失調症者は非統合失調症者よりも平均寿命が短いことが知られています。一九八九~一九九一年の間に、統合失調症の死亡率を見積もった三つの研究が報告されています。それによると、その全死亡率は「全人口死亡率の約二倍」、「全死亡率で約三倍の増加」、そして男性では「一般平均に比べ、五・〇五倍」、女性では「五・六三倍」多いことが示されています。この死亡率増加の最大の単一要因は自殺です。統合失調症では一般人口の自殺率の一〇倍から三倍となっています。しかし自殺以外にも、死亡率増加の要因があります。

事故

 統合失調症者は非統合失調症者と比べるとそれほど車を運転しませんが、距離あたりの事故率は高く、約二倍です。数はわかりませんが、かなりの統合失調症者が歩行中に自動車事故で死亡しています。たとえば、私か診ていたある患者は、バスが近づいてきたときに偶然にも縁石から車道に足を踏み外しました。こういう死亡はすべて、昏迷や妄想、幻聴による注意散漫が関係しています。

病気

 統合失調症者は感染、心疾患、H型(成人発症型)糖尿病、女性の乳ガンがより多いという報告があり、これらが死亡率を高くしているのかもしれません。こういった病気にかかった統合失調症者は医療関係者に自分の症状をうまく説明できず、また医療関係者はその訴えを無視し、訴えは単に統合失調症の症状だと思いがちです。統合失調症者の一部は痛みの閾値が高い、つまりかなりの痛みでないと痛みとして感じない、という報告もあります。したがって、訴えがあったときにはもうすでにかなり進行しており、治療困難な状態になってしまっているという可能性があります。

 反対に統合失調症者の高い死亡率を引き下げるものには、肺がん、前立腺がん、I型(若年発症型)糖尿病、そしてリウマチ性関節炎などがあり、これらの発生率は一般より低くなっています。なかでも前立腺がんは興味がもたれます。最近のある研究では、大量の抗精神病薬で治療した場合に前立腺がんの発生率が低いとされています。

ホームレス

 これまで十分に研究されてはいませんが、ホームレスはそのために事故や疾病の機会が多く、これが統合失調症者の死亡率を増加させているのかもしれません。イギリスでの最近の研究で、精神障害のあるホームレス四八人を一八ヶ月間にわたって追跡したものがあります。調査終了時点で、三名が病気(心臓発作、てんかん発作中の窒息死、動脈瘤破裂)で、一名は自動車事故で亡くなり、三名は持ち物を残したまま行方不明になっています。アメリカ各地の報告によると、精神障害のあるホームレスの死亡率はとても高いことがうかがわれます。たとえば、オクラホマ州の女性患者はある年の一月に精神病院から退院となり、古いにわとり小屋に住みっきました。彼女はそこで凍死したのですが、二年間も発見されませんでした。バージニア州では、明らかに殺害されたとわかる女性患者の白骨が、殺害の一年後に発見されています。アメリカで、統合失調症のホームレスの死亡率をくわしく調査すれば、結果はさぞ衝撃的なものとなるでしょう。