後天性魚鱗癰ichthyosis acquisita

 ほば尋常性魚鱗癬と同様であるが関節屈面も侵す.背景に悪性腫瘍悪性リンパ腫とくにホジキン病・白血病・乳癌・肺癌・子宮癌・膵癌・胃癌・卵巣癌など〕,代謝異常〔甲状腺機能低下・ビタミンA欠乏・脂肪代謝不全〕・吸収不全症候群・鉄欠乏性貧血・トリパラノール〔コレステロール形成阻害剤〕内服,サルコイドーシス,悪液質,ハンセン病などがある.遠山氏連圏状粃糠疹をこの限局型とみなすこともある.

 〔同義語〕dyskeratosis follicularis, psorospermosis follicularis vegetans (Darier],keratosis follicularis

 〔症状〕幼児・青年期に発し,粟粒大の暗褐色角化性丘疹が多発・集簇,硬い角性痂皮に被われ,これを除くとわずかに陥凹を示す.しばしば湿潤し悪臭を放つ.頚・腋窩・胸骨部・乳房下・腹・鼡径・陰股部のような発汗の多い間擦部に好発し,ここでは丘疹が融合して乳頭状~コンジローマ様増殖をきたす.ときに水疱形成し,ヘイリー・ヘイリー病との異同が問題となる.徐々に進行,慢性に経過し,特に夏季発汗により増悪.手背足背に疣贅状肢端角化症を合併することもある.まれに片側性線状に生じ,棘融解を伴う列序性表皮母斑(acantholytic epidermal nevus)との異同が問題となる.

 手掌足底の角化,爪甲変形〔肥厚・脆弱化・爪下角質増殖〕,口腔粘膜・眼結膜に丘疹,舌の絨毛化,食道壁肥厚,精神異常〔約10%,精神薄弱・てんかんうつ状態〕を合併することが多い.手術・妊娠後急激に発症することあり(acute eruptive Darier'sdisease].

 二次的に細菌・ウイルス感染〔Kaposi水痘様発疹症〕をきたすことがある.

 〔病因〕常染色体性優性遺伝であるが突然変異でも起こる.家族内発生例が多い.やや男子に多い.

 〔組織所見〕初期は毛包一致性のこともあるが,必ずしも毛包に限局しない.①異常角化(dyskeratosis)…円形体(corps ronds) と顆粒(grains),②間隙(lacunae)形成,③真皮乳頭が上方に伸び,間隙中に突出して絨毛(villi)形成の3つを主体とし,これに乳頭様表皮増殖,角質増殖,不全角化を伴う.

 〔鑑別診断〕黒色表皮腫,家族性良性慢性天疱瘡,脂漏性湿疹.

 〔予後〕難治.

 〔治療〕エトレチネート,境界線照射,サリチル酸ワセリン,尿素軟膏,皮膚削り術.

 transient acantholytic dermatosis〔Grover 1970〕

 一過性に丘疹・小水疱が体幹・大腿に生じ痰痒あり.中年以降に多い.数週ときに数年にわたる.組織学的に限局性の棘融解あり.その像により天疱瘡型[suprabasal acantholysis],ダリエー型[acantholytic dyskeratosis. 円形体],ヘイリー・ヘイリー型〔suprabasal cleft,多くの棘融解〕,落葉状天疱瘡型〔superficial acantholysis〕,海綿状態型〔海綿状態の中に棘融解細胞〕とに分ける.


Side Memo

 ダリエー病ははじめpsorospermiaなる原虫の寄生によると考えられてpsorospermosis follicularisと呼称されたが〔Darier〕,これは異常角化細胞を原虫と見誤ったためである.

Side Memo

 円形体corps ronds : 大きく円形で均質な好塩基性の強い核と,好酸性の強い硝子化した細胞質とより成り,正常な棘細胞より大きい.棘細胞の早熟な部分的角化か角層に到達する前に生じたもので,異常角化の1種である.

 顆粒[細粒体]grains : 円形よりはるかに小さく,核は細長く殼物の粒に似,また核がより明瞭である点を除けば不全角化細胞に似ている.

 両者は異常角化(dyskeratosis)の1種であり,ダリェー病の他,ボーエン病,有棘細胞癌などにおいても認められる.