神経原性壊疽、褥瘡、自己損傷症について

1.神経原性壊疽neuropathic gangrene

 中枢または末梢の神経病変に由来し、四肢末端の壊疽と潰瘍を主体と、これに知覚異常・発汗異常・皮膚温異常一腱反射異常・運動障害・血行障害などを伴う。外傷・熱傷・感染が直接誘因となることが多い。最初限局性に紅斑・浸潤、ときに水疱を生じ、深い潰瘍となる〔足穿孔症(malum perforans pedis)〕。脊髄空洞症・脊髄癆・脊髄外傷・ハンセン病・アミロイドーシス・肢端潰瘍欠損症〔acropathie utcero-mutilante : 家族性Thさvenard型、非家族性Bureau-Barriere型)・末梢神経外傷などが基礎に存在する。

2.褥瘡decubitus

 長期臥床〔慢性衰弱性疾患・寝たきり老人・麻痺患者など〕中の人の、背・腰〔特に仙骨部・腸骨稜部〕・足踵のように、長期間圧迫されている部位に生ずる境界明瞭な、乾燥性壊死塊の付着した難治性の潰蕩。圧迫部位の発赤・腫脹に始まり、水疱・びらん・次いで潰扇化し、壊死は深く筋・腱・骨にも及びこれらが露出する。二次感染〔変形菌・嫌気性菌による敗血症〕が致命的となることがある。圧迫による阻血のほか、一般状態の不良〔低蛋白症・貧血〕が素因となる。二次感染・神経麻痺・屎尿による汚染はこれを助長する。予防が最も大切で、①常に体位を変え〔2時間毎〕、②清潔を保ち血行を良くし

 〔清拭・50%アルコールによるマッサージ、失禁者では頻回に処置・乾燥化〕、③圧迫が最小になるよう工夫〔円座・空気枕・空気シーツ・シーツや寝衣にしわがよらぬように、適度の硬さの寝具・エアマット・水ベッド・発泡スチロールマット、④外傷予防〔特に便器挿入時の注意〕、⑤全身栄養の改善を図る。

 治療は一般潰瘍に準じ、特に血行促進・感染予防に努め、全身状態改善後に必要に応じて回転植皮術などを行う。

3.自己損傷症artefacts、 Artefakte

 〔同義語〕多発性神経症性壊疽multiple neurotic gangrene、 ヒステリー性壊疽hy-steric gangrene、 neurotic excoriation、 acne urticata、 dermatitis artefacta

 〔症状〕突然、紅斑・びらん・潰瘍・壊疽などが発生する。手のとどく範囲、すなわち四肢・胸部・顔面に多く、背中央は避ける。月経周期と一致することもある〔30歳以上女子〕。右利きの人には左側に多く発する。爪・刃物・薬物[酸・アルカリ・腐蝕剤]・煙草の火など使用材料や方法により、種々の異なった皮疹を示す。まれに着色・異物沈着・異物塗布のこともある。抜毛狂、咬唇症(cheilophagia)、咬爪症、囗舐め病(lick dermatitis)、アカツキ病[坂本1960]などの特殊なものもある。

  〔病因〕精神的基盤、特にヒステリー、学校へ行きたくない、仕事をしたくない、退院したくない、戦線より離脱したい、人にかまって貰いたいといった願望、または低能など。

  〔診断〕①個人の環境・精神状態の追求と解明、②自己損傷の器物と行為の発見、③監視による皮疹の経過の観察、④精神的基盤の解決による皮疹発生の停止。

  〔治療〕精神的基盤の解決が根本。

   アカツキ病〔坂本1960〕:精神障害をバックとした無為性、すなわち洗顔・清拭を長期間行わぬため垢の固着した状態で、坂本は「通常の日常生活を送っていさえすれば脱落、清浄化されるはずの物質が、主として心的規制によって局所的清浄化が妨げられて鱗屑痂皮として蓄積した状態」と定義している。表皮母斑・かき殻疹のようにみえる。外用剤を極度に用い、これの蓄積する(inguinal/facial) f]omade crust もこの一種といえる。

 MUnchhausen症候群〔空想虚言症pseudologia phantastica、病院放浪hospi-talism〕:外科的依存性格。皮膚を傷付ける型あり。


Side Memo-

 自己損傷症の逆が被虐待児症候群(battered child syndrome)で、保護者が意識的に子供を虐待し、皮膚症状としては皮下出血・切傷・擦過傷・歯型痕・熱傷〔煙草の火〕が新旧混在し、衣類・おむつの交換がまれで不潔となる。その他骨折・脱臼・頭内出血・臓器破裂・精神障害等がある。