静脈瘤varix、および静脈瘤性症候群varikoser Symptomenkomplex

 下肢浅在静脈[大伏在静脈(v.saphena magna)、小伏在静脈(v. s. parva)など]がホース状、結節状、嚢状に拡張して蛇行し、表面からは青黒くみえ、通常自覚症はないが、ときに焼けるような刺すような痛みがある〔Krampfader〕。先天性な静脈壁ないし支持間葉組織の脆弱、静脈弁の不全、立坐位・妊娠などの負荷によって生ずる。はじめのうちは深部静脈が健全で循環は良く保持されている(primaryvaricosis)。

 深在静脈が静脈炎・栓塞をきたすと、代償がなくなり、静脈性求心性血行が障害される[secundaryvaricosis]。

 以上の変化に引きつづいて起こる病変を一括して静脈瘤性症候群と呼ぶ。

 足背から下腿下半分に浮腫および倦怠疲労感を生じ、朝方軽減するが夕方に増強する。かかる水力学的圧のため赤血球が管外に出〔purpura jaune d'ocre、うつ血性紫斑(purpuraorthostatica) 、栄養障害・血漿成分遊出により結合組織の硬化を生じ、ここにヘモジデリン沈着が混じて皮膚は板状に硬く黒褐色を呈し〔siderosclerosis〕、にぶく光沢を有し、下腿末梢は緊縛状にやや細くなることが多い。刺激に対して抵抗が弱く、びらんし、また湿疹化する〔うつ滞性湿疹(dermatitis statica、 stasis derma-titis) 。わずかの外傷・感染のため潰瘍化しやすく〔下腿潰瘍(ulcus cruris varicosum)〕、潰瘍は大小種々、しばしば融合し、ときに円周状に下腿をとり巻くに至る。境界は明瞭で、断崖状の辺縁を有し、底部は肉芽状となり、治癒しにくい。 白色萎縮〔atrophie blanche (Milton 1929)=capillaritis alba]は、この硬化局面上に生ずる大小の萎縮性白色斑で、やや陥凹し、疼痛あり、毛細血管の栓塞性炎症のために小潰瘍を反復する。

 [治療]①長時間歩行・起立を禁止、外傷・感染からの保護・足高挙、②弾性包帯、③赤外線・紫外線・交互浴・マッサージ、④静脈瘤の外科的(stripping)・薬物的(Verodung)除去、⑤末梢循環促進剤、⑥合併症〔湿疹・潰瘍など〕にはそれぞれの治療。

Side Memo

 静脈癇性症候群・下腿潰瘍は白人にきわめて多く、特に太った老婦人に多くみられる。欧亜夕の皮膚科は150~300床を有するが、その1/4~1/5近くが下腿潰瘍の患者であることもまれではない。静脈学(phlebology)は、皮膚科・外科の中で重要なパートを占めている。