成人T細胞白血病/リンパ腫

 

 〔概念〕 HTLV-I〔human T-cell lyraphotrophic virus type I : Gam〕〔レトロウイルス〕によるCD4陽性T細胞腫瘍で,白血病状態の優位なものを成人T細胞白血病(ATL),リンパ節腫脹の優位なものを成人T細胞リンパ腫と区別するが両者に移行があり,また後者は末期に白血病化するので両者は厳密に区別すべきものではない.高月[1977]は表26-8のように分類したが,石井・高月[1987]は抗体, proviral DNA をも考慮に入れて,①急性型,②慢性型,③くすぶり型,④in-termediate型,⑤キャリア型,⑥リンパ腫に再分類している.

 〔症状〕

 1)嘔気・嘔吐・腹痛・腹部膨謫感・食思不振の消化器症状,発熱・感冒様症状,倦怠感,皮疹などで始まることが多い[消化器症状当該部への浸潤,呼吸器症状は肺感染症による].

 2)初診時症状(表26-9]

 3)経過:急性な発症,経過から慢性に長期経過するもの〔<すぶり型smoldering ATLL〕,その急性増悪[crisis]など種々であるが一般に予後不良

 4)皮疹〔付図26-47〕

 a)特異疹:全例の50%にみられる.粟粒大~鶏卵大の紅褐色,硬く,半球状に隆起し,ときに皮下にまで達する丘疹・結節・腫瘤,母指頭大~鶏卵大,落屑・結痂性の紅褐色浸潤性隆起性局面,紅皮症など.腫瘍細胞の血管周囲性および表皮内浸潤.

 b)非特異疹:真菌症・帯状疱疹・ウイルス性疣贅・膿皮症・疥癖などの感染症,紅斑,紫斑,丘疹,じんま疹,水疱,潰瘍,乾皮症,紅皮症,痛痒症,痒疹・湿疹様皮疹.

 5)その他:肺〔Pneumocystis carinii によるカリニ肺炎などの日和見感染〕,肝

〔黄疸〕,高カルシウム血症による腎障害・中枢神経障害,消化器〔下痢・糞線虫症〕,骨破壊[IL-1, PTH関連蛋白による破骨細胞の活性化],M蛋白血症,他臓器亂

 6)検査所見:白血球増多〔1〔〕万前後,うち異常リンパ球はATL 30~100%,AT-ML O~75%〕,血中腫瘍細胞出現〔分葉状/クローバ状(convoluted cells),花弁状(flower cells), 0KT4陽性が多い〕, LDH〔700 iu n以上は予後不良〕・GOT・GPT・ALP・高カルシウム血症[心・腎・肺に沈着, nephrocalcinosis による腎障害,尿毒症,予後判定上重要].総蛋白量低下・遅延型過敏反応陰性・抗HTLV-I抗体陽性.

 

 HAM〔HTLV l associated myelopathy (納1986)〕またはTSP[tropical spastic pararesis]:緩徐進行性,対称性錐体路障害性ミェロパチーで,感覚障害の存在することもあり,しばしば膀胱障害を伴い,髄液・血清の抗HTLV-I抗体陽性.発症メカニズムには①神経組織へのslow vi rus infection, ②細胞性免疫反応,③抗体性免疫反応などが考えられ,HTLV-Iキャリアの2,000~3,000人に1人みられ,ATL患者にも発症し得る.ステロイド有効.その他HTLV-Iに関連するものとしてHTLV-I関連気管支肺症〔HTLV-I associated bronchopneumopathy : HAB〕, HTLV一I関連関節症〔HTLV-I associated arthropathy : HAAP〕などがある.

 〔ATL細胞〕CD2 ・ CD3 ・ CD4 ・ CD25 ・ HLA-DR 陽性, CD8陰性という表面形質を有する. CD3・TCRの発現の抑制もみられる.

 〔疫学〕日本は世界一の多発国で九州南西部〔鹿児島・長崎な帽,沖縄次いで四国南部,紀伊半島に集積.他地区では上記地区よりの移住者が多い.キャリア〔HTLV-I 陽性者〕は全国で約100万人,年間約500人の患者が発生する[キャリア2000人より患者1人が発生].50歳代に多く男女比1.3:1.母→子,男→女,輸血の3経路による感染が考えられ,従って家系内発生が多い.

 〔診断〕上記症状,抗HTLV-I〔抗ATLA〕抗体陽性および腫癪細胞のDNA中のproviral DNA の検出より診断.

 〔治療〕VEMP ・ VEPA ・ VEPA-M など.初回は有効であるがすぐ耐性を生じ早期に死亡することが多い.