子供の夜尿症:診断と治療


 夜間睡眠中の不随意に起こる尿の漏れを夜尿という。下垂体ホルモンの日内変動が確立し、排尿抑制中枢のコントロールが可能になった以降の夜尿を病的と判断し、夜尿症(nocturnal enuresis)という。5~6歳以降に毎晩夜尿が出現するのは2~3%となり、一般的に、この時期以降の夜尿を夜尿症ということが多い。夜尿症は、1:1。5の割合で女児より男児に多く、夜尿症の約10~20%に昼間遺尿が認められる。

 夜尿症は、機能的障害によるものと器質的障害によるものの2つに分類される。もっとも多くみられる機能的夜尿症は、乳児期より引き続く一次性(生来型:約90%)と、いったん排尿が自立したのち、4歳以降に再び夜尿症が発症した2次性(獲得型:約10%)とに分けられる。

 一次性夜尿症の大部分は、基礎に神経内分泌的な発達障害があり、膀胱に尿がたまった感じが脳に伝わって、目覚める働きが完成していないために起こる。さらに、機能的膀胱容量の縮小、アレルギー症状、自律神経系の不安定さ、冷え症、周囲の人達の対応などによる心理的緊張や劣等感が加わって夜尿を持続させていると考えられる。

 二次性夜尿症は、通常何らかの心理的・身体的ストレスが誘因になって発症する。ストレスとして頻度の高いものは、入院、同胞の誕生、家族の死亡、両親の離婚・不和、転居、入園・入学、転校などの環境の変化や虐待、不安、緊張などである。

 器質的夜尿症は、頻度としては少ないが、尿路感染症後、先天性下部尿路障害、潜在性神経因性膀胱、内分泌疾患などによるものがある。


1……診断

1)問診では、出生歴や家族歴はもちろんのこと、口渇感、多飲、多尿、遺尿、遺糞、頑固な便秘、夜尿の季節変動、外泊時の夜尿の有無をはじめ、夜尿の家族歴(両親とも夜尿症:77%、片親が夜尿症:44%)、ライフスタイルなどについて聞き、さらに、二次性夜尿症の鑑別のため、夜尿の出現した時期の異常体験の有無を聞くことが重要である(睡眠にストレスが作用すると、覚醒しなくなったり、尿間隔が短縮することがある)。

2)成長曲線の作成:成長曲線の急激な変化などは、器質的疾患の有無、心因性(ストレスによる)の診断に有用である。夜尿症の症例では、身長も低めで、二次性徴の出現も遅れることが多い。

3)機能的膀胱容量の測定:帰宅後、ギリギリまで排尿を抑制させ、その容量を3~4日間測定し、最大抑制尿量をもって判定する。夜尿症では、機能的膀胱容量の低下している症例が多い。

4)起床時の尿比重の測定:起床時に、尿比重の低下している症例が多い。夜間多尿の判定に参考となる。起床時尿比重1。022以下、浸透圧800mosm//以下を低下と判断する。

5)心理面でのアプローチ:各種心理テストが二次性の診断、および夜尿によって二次的に起こる精神心理的ストレスの判定に有用である。

6)水制限試験:心因性多尿、尿崩症の鑑別に必要である。

7)画像診断(CT、 MRI、静脈性腎盂造影、逆行性膀胱造影、椎骨X線写真):尿崩症、尿路奇形、二分脊椎症などの鑑別に有用である。

8)検尿:尿路感染症、糖尿病、尿崩症の鑑別に有用である。

9)各種尿量の測定(1回排尿量、最大排尿量、夜尿量、起床時排尿量、昼間尿の測定)

10)起床時尿比重(浸透圧)の測定

11)膀胱内圧検査

12)陰部視診:真性包茎、異所性尿道口などの診断に必要である。

13)脳波:睡眠中のてんかん発作に起因する夜尿の診断に有用である。膀胱内圧脳波終夜同時測定ができれば、睡眠と夜尿のより詳細な関係が明らかになる。

14)血漿アルギニンバソプレシンの測定:低イ直であれば中枢性尿崩症(特発性尿崩症)を、高値であれば先天性腎性尿崩症を考える。

15)遺伝子解析:常染色体優性の家族歴のある夜尿症の遺伝子解析で、13q13-q14、3に責任遺伝子があるという報告もある。

16)アレルギー検査:食事アレルギーの関与が強く考えられる場合には必要である(lgE値、 IgE-RASTなど)。

 鑑別診断としては、一般的に多尿をきたす疾患があげられる。

 ①心因性多飲からくる心因性多尿
 ②習慣性多飲からくる心因性多尿
 ③尿崩症(中枢性、腎性、先天性、遺伝性)
 ④慢性腎機能障害をともなった腎奇形(低形成腎、嚢胞腎、水腎症など)
 ⑤尿路奇形
 ⑥脊髄疾患を含めた中枢神経系異常(脳腫瘍など)
 ⑦糖尿病
 ⑧薬剤性
 ⑨神経因性膀胱、知能障害などの精神神経障害に起因した尿失禁など


2……治療

1)生活指導

 心理的負担を増やさないためにも、治療の四原則(『焦らず』、『怒らず(しからず)』、『起こさず』、『気にするな』)を守ることが大切であることを家族に充分に説明し、納得を得る。

 夜間の尿保持力を高め、夜間尿量を減らすもっとも生理的な刺激は、熟睡することである。

 尿保持力を高める排尿抑制訓練をし、夜間尿量を減らすために塩分摂取量・飲水量のコントロールを行う。特に、夕食を早めにとり、夕食後は水分

 (ジュース・お茶など)や果物など水分を多く含んだものの摂取はやめる。

 夜間冷えると、自律神経の影響で末梢血管が収縮して腎血流量が増加し、それにともなって尿量が増加するため、睡眠中の保温をすることが有効である(冷え症に効くような入浴剤の使用など)。

 小学校3年生以上になると、夜尿による心理的ストレスが大きくなるので、子供の自信を失わせないように、夜尿以外の子供のよい面にも充分に目を向けるようにし、怒りや焦りの気持ちから叱ったり、侮辱したり、同胞と比較したりすることのないように両親に対して指導する。本人のカウンセリングばかりでなく、親の焦りを取るカウンセリングも必要かつ有効である。


2)薬物療法

 薬物を使用して、症状が軽減して心理的緊張がとれると、悪循環を切るきっかけとなり、だんだんとよくなることが少なくないが、薬剤治療はあくまで補助手段である。薬剤の使用は充分な生活指導が行われている症例には有効であるが、薬剤に依存している症例では、薬剤中止後再発する頻度が高くなる。

a)三環系抗うつ剤:中枢性に精神安定をはかり、抗うつ効果、鎮静効果、覚醒閾値の低下、膀胱体部平滑筋の弛緩による機能的膀胱容量の増大作用がある。塩酸イミプランミン(トフラニール0)、塩酸アミトプチリン(トリブタノール0)、塩酸クロモプラミン(アナフラニール0)などがある。

b)自律神経調整剤:直接末梢神経や血管に作用し、膀胱体部平滑筋を弛緩させることにより機能的膀胱容量を増大させ、症状を軽減させると考えられる。ロートエキス、臭化プロバンテリン(プロパンサイン)などがある。

c)間脳機能調整剤:ガンマオリザノール(y-OZ、 Hi-Z)、 Bellergal

d)デスモプレシン点鼻療法(抗利尿ホルモン製剤):低浸透圧性多尿型の夜尿症に効果的である。本剤の就寝前鼻喉内噴霧で、腎における水の再吸収増加(尿濃縮)により、睡眠中の尿量を減少させることができる。起床時の尿比重を1。030ぐらいにするのが治療の目安である。

e)膀胱機能改善剤:機能的膀胱容量の減少している症例に有効である。ポラキスバップフォーなどがある。

f) 漢方薬小建中湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、白虎加人参湯、柴胡桂枝湯などがある。


3)その他の治療法

a)行動療法(条件付け法):尿がかかるとベルが鳴る→膀胱の緊張刺激→起きる、という条件反射を形成させる方法である。

b) Kimmel法(膀胱耐容訓練):日中の頻尿の癖をやめさせるのに効果的である。親は子供が尿意を訴えた時に、「少しの間(5分ぐらい)我慢しなさい。」と指示し、5分間こらえたら子供をほめてから、排尿を許すという操作を繰り返し、徐々に時間を延長して最大30分こらえさせるところまで続ける方法である。尿量の目標値としては、 7 m L/kgである。

c)トークンエコノミー法:夜尿のなかった朝にトークン(代用貨幣)を与え、それが一定数たまったところで約束のものと交換する。

d)自律訓練法:弛緩訓練によって排尿の自律的統制を形成させる。

e)催眠療法

f) Azrin法:就寝一時間前にパジャマとシーツの取り換え作業をし、また寝たふりをする。トイレに行って排尿し、帰って寝たふりをする。これを20回繰り返す。もし夜尿があれば、翌日も同じことをくり返す。

O家族は、これまでの自分かちの対応が悪いために、子供たちの夜尿が続いているのではないか、と自分自身を精神的に追い詰め、そのことにより子供たちへの対応に余裕のもてない状態となっていることが少なくない。看護にあたり、夜尿症の大部分は病的なものではなく、遺伝的な排尿機構の発達の未熟性に起因しているものが大部分であり、心理的な要因の関与するものは少ないことを充分に説明し、またそのために、基本的にはその子供の発達を見守り待つことが大切であることを家族と患児に充分理解してもらう。「今の治療法が効かなくても心配はなく、だんだんよくなります」と家族を支えることも必要である。

○夜間起こして排尿させることの意味はほとんどないということを、看護する側も充分理解しておく。会話ができて自分で歩いてトイレに行っても、翌朝は夜間起こされてトイレに行ったことを覚えていないことが多く、トイレおねしょの状態だからである。

○夜尿症そのものが原因となって、恐怖症や登園・登校拒否といった二次性の症状が現れ、それらの症状が目立つ場合もあるので注意が必要である。

○夜尿症の治療のため入院することは少なく、ほとんどの場合は、難治|生のものの診断確定のための入院である。ただし、環境などのストレスが作用している症例では、入院と同時に夜尿が軽快ないしは消失することが多い。このような時は、環境の整備などを考える。学校および交友関係が心理的負担になって夜尿の原因となっている場合は、夏休み・冬休み・春休みなどで軽快することがある。

O塩分制限・水分制限をする場合には間食、調味料、果物の摂取などにも注意が必要である。