アリセプトは初期の段階での服用が肝心

 

 米国老年構神医学協会(AAGP)、アルツハイマー病協会(AA)、米国老年医学会(AGS)は共同声明のなかで、アリセプトについて、

 ①作用持続時間が長く、一日一回の投与で十分であること

 ②早期から投与できること

 ③常に肝機能検査をする必要がないこと

 などを利点としてあげています。

 といっても、アリセプトは現在のところ、日本では、軽度から中等度のアルツハイマー型痴呆と診断された患者さんにしか保険が適用されないので、その前の「初期の初期」の段階の患者さんには保険で使用することができません。

 もう一つ、前にも述べたように、アリセプトアルツハイマー型痴呆を完治させるのではなく、進行を遅らせることしかできないのです。また、服用を中止すると症状が悪化する可能性もあります。

 しかし、中止したことで症状が悪化するということは、服用中はたしかに効いていたことの証でもあります。

 また、アリセプトは脳内のアセチルコリンの量を増やすとはいっても、アセチルコリンの減少を防ぐから相対的に増えるということであって、アセチルコリンの絶対量が増えるわけではありません。つまり、シナプスに放出されたアセチルコリンアセチルコリンエステラーゼによって分解されるのを阻害することによって、シナプスでのアセチルコリンの分解が遅れるぶん、アセチルコリンの機能が維持されるのであって、アセチルコリンの産生自体が増えるわけではないのです。

 したがって正確には、アリセプトアセチルコリンの機能を延長させるのであって、病気が進行して重度になってしまってからでは効果があらわれにくくなります。なぜなら、神経細胞が脱落・変性してしまってからでは、アリセプトが作用を及ぼす部位自体が少なくなっているからです。

 ですから、アリセプトは、痴呆の初期に投与すればするほど高い効果が期待できることになります。

 アメリカからの報告によれば、初期から中期にさしかかった頃までの時期に適切に投与すれば、アルツハイマーの軽度から中等度に至る過程を半年から長くて三年ぐらい引き伸ばす可能性があるということです。

 また、アメリカでは、中等度や重度の痴呆患者に対してアリセプトがどう作用するかという研究が進められており、実際、記憶力などの認知機能の改善が、数値のうえでは認められないまでも、患者さんのQOL(クオリティーー・オブーライフ=生活の質)やADL(アクティビティー・オブーデイリー・ライフ=日常生活動作能力)の改善に効果があるとされています。ADLとは、自分で食事ができる、自分で髪をとかすなど身のまわりのことができる、家事の手伝いができるなど、患者さんの日常生活における活動性のことを言います。

 なぜこうした研究に意味があるのかというと、普通、痴呆がかなり進んだ段階では薬物療法による効果は期待できなくなり、実質的な意味での治療はほどこさないのが実態です。ところが、たとえ重度の痴呆で、自分の子どもを認識できなくなったような患者さんであっても、心理学的な側面から見れば、快・不快の感情や楽しいこと、ずっと昔の記憶は残っていると考えられているからです。

 患者さんのそうした心理状態を少しでもよくしてあげることができれば、それはそれで非常に重要なことではないでしょうか。

『快老薬品』酒井和夫著より