アルツハイマー型痴呆とは

 

 アルツハイマー型痴呆の診断基準は、記憶障害とともに、他の認知障害(失語、失行、失認、実行機能障害)のうち少なくともどれか一つが該当することとなっています。

 ここで言う「失語」とは言葉の障害、「失行」とは、いろいろな動作を行うことができない状態、「失認」とは、対象を認識できない状態、「実行機能障害」とは、ものごとを計画したり組織したり、あるいは順序よく実行したりすることができない状態を指しています。

 アルツハイマー型痴呆の一般的な経過はおおまかに軽度、中等度、重度の三段階に分けられます。アルツハイマー型痴呆の進行度を推測するための分類にはさまざな方法がありますが、単独で重症度の変化を正しくとらえることはむずかしく、いくつかの評価基準も併用して判断することが望まれます。いずれにせよ、アルツハイマー型痴呆の場合、発症から最期を迎えるまでの過程は三~十数年にわたるとされています。

 軽度のアルツハイマー型痴呆では、まず記銘力の障害があらわれます。物のしまい忘れが多くなるほか、昔のことは覚えていても、新しいことが覚えられなくなります。電話番号が覚えられない、また、物の名前を三つぐらい言ってそれをくり返すように言うと、その直後ならできるのですが、数分後ではもうなかなか思い出せなくなります。

 本人は、年のせいかと思ったり、また自分なりにいろいろと努力はするのですが、やがてそれが追いつかなくなります。また、単なる記憶だけでなく、連想したり推測したりするような論理的思考も損なわれてきます。

 このような時期には、まわりの人にもわかる失敗も増えることから、構神が不安定になり、絶望したりうつ傾向が見られたりするほか、無関心や意欲低下をきたす場合もあります。それにともなって不眠、めまい、肩こりなどが起こることもあります。

 さらに、一方的な思い込みやその人なりの防衛反応としての妄想が生じることもあります。たとえば、自分の物を盗まれたと思う「盗られ妄想」、大切な人を取られまいとする気持ちから出る「嫉妬妄想」、人が自分の悪口を言っていると思い込む「被害妄想」、食べ物に毒が入っていると思う「被毒妄想」などがあります。さらに、不眠やせん妄などもあらわれます。

 見当識の障害は最初はまだ比較的軽度ですが、時間(年月日)の感覚が不正確になってくるので、大事な約束を忘れることがあります。しかし、場所や人の顔などはまだ判断がつくことが多いと思われます。

 日常生活では、表面的な挨拶や世間話などは普通にできるので、一見痴呆とは思われないこともあります。けれども、複雑な作業を完全にこなすことができなくなり、たとえば料理をするとき、つくるのに必要な材料を選んで買ってくることができなくなります。しかし、着替えや入浴などは問題なくできるので、まだ独力で暮らすことはできます。ただし、ガスを消し忘れたりすることがあるので、ガス器具を電気器具に換えるなどの処置は必要です。

 アリセプトの有効性を期待するには、この時期に至る前か、遅くてもこの時期までに使いはじめることが望まれます。それによって症状が改善し、進展を遅らせるのに役立つことが予測されるからです。

『快老薬品』酒井和夫著より