認知症であっても、できることはやってもらう

 

 これもイメージの問題ですが、痴呆というと、何もできなくなり、あらゆることの世話をしなくてはならないかのように思い込んでしまう人が多いのではないでしょうか。なかには、痴呆と聞いただけでパニックにおちいってしまう家族もいるかもしれません。

 もちろん、症状は徐々に進んでいきますが、実際にはいきなり何もかもできなくなるわけではありません。たしかに、病状の進行具合を知る意味で、何かできなくなってきたかに注目することは必要です。しかし、実際の生活のなかで何かできるかを知り、その能力を活かすことのほうに、より重点を置くべきです。

 その特徴をよく知り、軽度のうちは可能な限り口も手も出さず、危険なこと以外は自由にやってもらうことが、患者さんにとっても家族にとっても望ましいのです。

 軽度のうちは一人暮らしをしている人もいます。たとえば、毎日同じ料理の内容であっても、自分でできているうちはそれでよいのではないでしょうか。やがて料理ができなくなったときでも、皿を洗うことはできます。火傷にさえ気をつければ、お茶を入れるくらいはできます。機械類の操作ができなくなり、洗濯機が使えなくなっても、乾いたものをたたむことはできます。季節に合った衣服をきちんと着ることができなくても、着替えることはできますし、お風呂で髪は洗えなくても身体は洗えるということもあります。

 また、痴呆の患者さんを一人だけ残しての外出は一切できないかというと、そうでもありません。いくつかの注意さえ怠らなければ、初期のうちは大丈夫です。