誤診によるクモ膜下出血の放置


クモ膜下出血が起こって、頭痛などのために病院へ駆けつけたとします。その場合、すぐに正しく診断がなされれば、当然、適切な治療が開始されると誰もが思います。しかし。いろいろな事情で、くも膜下出血と診断されなかったらどうなるのでしょうか?

ワルターらがドイツ医学週報に、脳動脈瘤の破裂による154例のクモ膜下出血についての調査結果を発表しています。これは、92例の女性患者と62例の男性患者についての研究で、ドイツのホルブルグ・ザールの大学病院での調査です。血管撮影または病理解剖所見で最終的に確かに脳動脈瘤があったことが認められた症例のみの研究で、脳動脈瘤がなかったくも膜下出血例は入っていません。

この調査結果では、154例中の52例の患者が、最初には正しく診断されなかったことがわかりました。ご誤診例中の41%は、40歳以下の若い女性で、症状の激しくない場合でした。

誤診された症例には、発熱、悪寒戦慄、炎症を示すような血液の検査所見などの、全身の感染症状を思わせる状況のものがありました。また、集中困難、記憶障害、先見当識、めまい感などがあった場合、既に高血圧であればほかの脳血管障害と考えられたり、あるいは脳腫瘍と診断されたりしたようです。頭部の痛みから頸椎の疾患と思われたり、片頭痛と診断されたものもあります。

また、コワルスキーらは、482人のクモ膜下出血患者の中で、最初の診察ではクモ膜下出血と診断されなかった56症例について調べ、その最終的な結果についても報告しています。この56例の誤診は全体の11%にあたりますが、そのうち22例に理学的な合併症がおこり、特に12例には、脳動脈瘤からの再出血が起こったと報告されています。

これは何らかの症状があって医師の診察を受けたものの、クモ膜下出血と診断されなかった13人の患者たち、すなわち、いったんは脳動脈瘤から出血があったにもかかわらず、その脳動脈瘤に対する治療が開始されなかった56例の12例において、その脳動脈瘤から再び出血がおこったというわけです。

つまり、クモ膜下出血が起こったが、幸いに最初の出血では大きな障害を残さずにすんでいたものの、2度目の出血では致命的な大出血となった可能性があります。出血が激しかった場合には、たとえ救命できたとしても、植物状態になってしまうとか、つよい麻痺のため寝たきりになるというような、重い後遺症を残すことになるかもしれません。

頭痛があって、かかりつけの医師に診察をしてもらう場合、すべての施設で頭部のCT検査ができるわけではありませんし、念のために頭痛患者のすべてに頸椎穿刺を行うことも現実的ではありません。ですから、せっかく現代の医学でいろいろな診断方法や蓄積されてきた知識があるにもかかわらず、ある程度の患者においては「正しい診断がつかないことがある」ということは、厳しいけれど明らかな事実なのです。