爪下外骨腫、粘膜粘液嚢腫

爪下外骨腫exostosis subungualis

 主として第1趾末節(まれに他の指趾;の爪下の内側に生ずる淡紅色,弾性硬,半球状の腫瘤.爪甲は二次的に変形する.骨膜下未分化閧葉組織の過誤腫か.爪下疣贅・クロームス腫瘍・ボトリオミコーゼ・剌爪と鑑別を要する.切除.
                    

粘膜粘液嚢腫mucous cyst of the oral it!ucosa〔付図26-39〕

   主として下口唇まれに頬粘膜・舌に生ずる,ドーム状隆起を示す,直径2~10 mmの軟らかい腫瘤.切開すると粘液が出る.粘液腺排泄管が破れ,シアロムチンが粘膜下に貯留し,まわりに好中球・リンパ球一線維芽細胞・マクロファージ・毛細管が増殖して壁状となる.ジアスターゼ抵抗性PAS陽性,ヒアルロニダーゼ・抵抗性アルシヤンブルー・コロイド鉄陽性.

10.指趾粘液嚢腫digital mucous cyst

 指〔ときに趾〕の末節背面に生ずる,やや透明なドーム状に隆起した直径10mmまでの脯瘤.外傷先行が多い.ムチン〔ヒアルロン酸〕沈着あり,その中に裂隙~嚢腫を形成する.内にあり下床に対して可動,小さい,指末節背面に発生,圧迫しても散らないなどの点でガングリオン〔膣鞘や関節嚢のヘルニア状嚢腫〕と区別される.関節運動による伸展圧迫,機械的刺激〔外的・下床にHeberden結節〕により線維芽細胞が刺激されヒアルロン酸の過生産を来したと考えられる.

 〔付〕ガングリオンganglionの発生病理には①滑液膜ヘルニヤ,②滑液膜異所性化生,③膠原線維の粘液変性等の説がある.


〔A〕 肉  腫

比較的単一な細胞成分よりなり,ほとんどが非多中心性に発生する.

01.線維肉腫fibrosarcoma

 真皮・皮下組織に発し,皮内結節として硬く触れ,急速に発育して表面凸凹,結節状隆起を来し,まれに潰瘍化,衛星転移(satellite lesion}および血行性転移〔特に肺〕をきたすが,リンパ節転移は少ない.腫瘍細胞が綾織り模様状に並ぶ.

2.脂肪肉腫liposarcoma

 大腿・膝に好発,境界不明瞭な結節となる.血行性に肺・肝に転移.

3.粘液肉腫

  皮下に発し,線維肉腫・脂肪肉腫・軟骨肉腫などの問質が粘液変性をきたしたものおよびムチン様物質分泌の強い線維肉腫.

4.平滑筋肉腫leiomyosarcoma

  ①皮膚型:単発性結節で疼痛あり.転移まれ.

 ②皮下型:びまん性隆起を示し,血行性に主として肺に転移.いずれもまれ.

リンパ管腫

リンパ管腫lymphangioma

 A.限局性リンパ管腫lymph, circumscriptum

 米粒大までの小水疱が集簇して不規則な局面を形成し,蛙の卵状である.内容は透明であるが,ときに出血して血庖となる.乳頭層におけるリンパ管拡張.

 B.海綿状リンパ管腫lymph, cavernosum

 皮下に深在して青紫色の大きな腫瘤となり,多少圧縮性あり,また穿刺にてリンパ液を得る.舌・顔面・陰部などに多い.真皮深層・皮下の不規則なリンパ管拡張.

 C.嚢腫状リンパ管腫lymph, cysticum

 真皮深層のリンパ管拡張で,側頚部に多い.

                     いずれも外科的切除を要する.Aを浅在型, B, Cは本態的に差なく一括して深在型(deep lymphangioma)とする方が簡単でよい〔Flanagan 1977〕.

 〔付〕後天性リンパ管腫〔リンパ管拡張症卜acquired lymphangioma (lymphangiectasia〔Fisher 1970〕):手術・放射線・外傷などにより中枢側リンパ管に通過障害が起こり,末梢
部リンパ管拡張を来したもの.

 

クインケ浮腫 oedema Quinckei について

 〔同義語〕急性限局性皮膚浮腫oedema cutis circumscriptum acutum、 血管神経性浮腫oedema angioneuroticum、 血管浮腫angioedema

 〔症状〕急に限局性の浮腫を生じ、数時間~数日持続する。食思不振・胃腸障害・頭痛などを前駆症とすることもある。通常皮膚色~淡紅色~蒼白色で少し硬く(teigig)、豌豆大~手掌大で、ときに熱感・瘢痒を伴う。顔面[眼瞼・口唇・頬]に好発し、まれに粘膜〔咽喉頭~呼吸困難〕にも発する。かかる発作が年余にわたり反復する。

 〔病因〕1)非遺伝性:じんま疹と同じくヒスタミン、セレトニン、その他の血管作働性ペプチッドの作用による。作用部位はじんま疹〔真皮〕より深く皮下組織。

 2)遺伝性:hereditary angioneuroticedema [HANE〕〔Osier 1888]。常染色体性優性遺伝。血清中CI阻害因子の活性低下ないし欠損。わが国では10数家系。

 〔予後〕1)は加齢とともに軽快、2)は軽快傾向なく、常に声帯浮腫の危険がある。

 〔治療〕1)はステロイド、抗ヒ剤、エフェドリンに反応。2)はメチルテストステロン、抗プラスミン剤、鎮痛剤、ときに気管切開。


Side Memo

 ヘブラ痒疹(pr。 chr。 Hebra)は古くからある病名であるが、今日では特に独立性は認められず、多くはアトピー痒疹ないしは悪性リンパ腫に併発した痒疹と考えられている。

Side Memo

 Muckle-Wells症候群〔1962〕①じんま疹様発疹、②悪寒一発熱・膝関節痛・胸内苦悶・じんま疹様紅斑の発作〔Aguey bouts〕、③感音性難聴、④腎障害、⑤アミロイドーシス、⑥血沈促進、⑦白血球増多、⑧7-グロブリン〔およびa2-グロブリン〕増加、⑨その他〔緑内障・結膜炎・斜視・窪足・皮膚肥厚・バチ指・性欲低下〕を示す常染色体性優性遺伝性疾患。


Side Memo

 ウイルス性肝炎の初期にじんま疹様皮疹・環状紅斑・紫斑等を生ずることがある。B型肝炎では5%に皮疹を生じ、その大部分はじんま疹様皮疹で、24時間以上持続し、血管炎像・補体低下がみられICの関与が考えられる。 STDとしてのB型肝炎の増加している今日、初期症状として注意を払う必要がある、

痒疹prurigo:小児ストロフルス、黒色痒疹、フォックスフォアダイス病


 丘疹ないしじんま疹様丘疹を主体とし、傲庫を伴い、慢性に経過。個疹の初期は紅斑・膨疹あるいは漿液性丘疹の状態で、直ちに充実性丘疹〔痒疹小結節(prurigokn乱chen)〕となり長く続く。しばしばリンパ節腫大〔痒疹便毒(Prurigobubo)]を伴う。

1。急性痒疹prurigo acuta〔ストロフルス(strophulus)〕

 〔症状〕大部分が小児を侵し〔小児ストロフルス(strophulus infantum)、小児じんま疹様苔癬(lichen urticatus infantum)〕、食餌性・虫剌後に生ずるじんま疹様丘疹で、紅斑・膨疹・漿液性丘疹に始まり直ちに充実l生丘疹となる。掻破のため小水疱・小疱皮を曩邨こ有し、比較的急性に経過する。ときに発熱・食思不振・睡眠障害などの前駆症を伴う。瘢痒のため不眠・神経衰弱となり、痩せたいらいらした児となる。掻破のため二次感染を来し、膿疱疹一痛・リンパ節炎を続発する。夏季に多い。成人の場合は虫剌〔南京虫・シラミ〕によることが多い。四肢仲側・体幹に多い。

 〔病因〕食餌〔卵・大豆・豚肉〕に対する過敏症および虫剌に対する異常経過。

 〔予後〕夏季反復、学童期には自然治癒。

 〔治療〕①食餌の注意〔イ固人差あり・また厳密すぎぬように〕、②胃腸を整調、③変調療法〔ビスタグロブリンノイロトロピン・転地〕、①カチリ・抗ヒ剤・NSAIDステロイド軟膏、⑤抗ヒ剤ないし抗アレルギー剤〔ケトチフェン・オキサトミ罔、⑥精神安定剤、⑦清潔、⑧虫に注意。

 

2。亜急性ないし慢性痒疹prurigo subacuta s。 chronica

 〔同義語〕互いに移行もみられ、余り細かく分けることは意味がない。

 〔症状〕成人に多く、比較的単純な像〔単純性慢性痒疹(pr。 chr。 simplex)〕のものと、中高年者の体幹・大腿に多く痒疹結節と苔癬化局面とから成る多様な像〔多型慢性痒疹(pr。 chr。 multiformis Lutz 1957)]のものがある。前者は瘢痒のあるじんま疹様小丘疹で、掻破により痂皮を頂点に生じ、数日で痂皮は脱落、辺縁色素沈着rIEの小瘢痕を残し、主として成人の四肢伸側を侵す〔結節性痒疹(pr。 nodularis)。後者は痒疹性小結節のほかに集簇性苔癬化小結節と湿疹様局面とが存在し、全体に多彩な像を示す。

 〔鑑別診断〕①虫刺症[とくに疥癬]、②アトピー性皮膚炎、③自家感作性皮膚炎、④丘疹性壊死性結核疹、⑤壊死性血管炎、⑥水痘、⑦扁平苔癬、⑧壊死性座瘡、⑨急性痘瘡状苔癬様粃糠疹。

 〔治療〕基礎疾患の治療を第一とし、止痒剤を投与する。


3。色素性痒疹prurigo pigmentosa [Nagashima 1971〕

 思春期女子の背・項・上胸部に好発。発作性にじんま疹様膨疹、次いで紅色丘疹が反復出現し、あとに粗大網目状色素斑を残す。衣類の刺激・発汗などが関与(?)、合併内臓病変なく、難治でDDSに反応することあり。

   妊娠性痒疹prurigo gestationis : 妊娠3~4ヵ月頃、四肢仲側〔および体幹〕に掻痒、次いで丘疹を生じ、掻痕・小潰瘍・結痂あり、分娩とともに消退。2回以後の妊娠で発し、妊娠ごとに発生。

 妊娠中毒の痒疹性皮膚反応。。pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy [Lawley 1979〕〔PUPPP〕:初産婦の妊娠後期に生ずる癌痒の強い紅斑を伴うじんま疹様丘疹・局面の混在で、腹〔妊娠線部〕・殿・大腿・四肢を侵し、分娩後急速に消退し再発はない。全身状態良好。約70例の既報告。

 黒色痒疹prurigo melanotica 〔Pierini-Borda 1947〕:肝疾患に併発。上背・胸・上肢・側頚に掻痒ある小結節が多発。進行とともに暗褐色色素沈着がびまん性ないし網目状に発生、掻痕、白色小瘢痕を混在する。

 フォックス・フォアダイス病Fox-Fordyce's disease [1902〕

 主として腋窩、その他、乳暈・胱窩・外陰部などのアポクリン腺存在部に、半米粒大の充実性丘疹が集族性に生じ、激痒がある。毛は粗となり、短く切れさらに脱落する。苔癬化はしない。思春期から中年の女子に多く難治。月経前・月経中に増悪することが多く、また妊娠時軽決、閉経期治癒もある。アポクリン汗管が角化で閉塞し、表皮内に汗があふれて海綿状態を来し、海綿状態・微小水疱・表皮肥厚を来したものでホルモンの影響が考えられる。アポクリン汗疹(apocrine miliaria)。男性ホルモン軟膏、ステロイド軟膏塗布。

多型滲出性紅斑 erythema exsudativum multiforme

 [症状]

 1)頭痛・発熱・関節痛・倦怠感などを前駆症状とし、あるいはこれを欠き、肘頭・膝蓋・手足指趾背など主として四肢伸側に、左右対側吐に小紅斑を生じ、これは遠心性に拡大、米粒大~指頭大〔ときに小児手掌大〕のほば円形の浮腫性紅斑となる。境界明瞭で辺縁はわずかに堤防状に隆起、中央は色淡くやや陥凹する。鮮紅色で滲出傾向があり、新旧入りまじって多型を呈する。ときに水疱性・出血性となる。軽度の痛痒を伴う。環状の中に新しい発疹を生じて二重環となることもある〔虹彩状(e。e。m。iris)〕。まれに粘膜にも生ずる。春夏に多く、また女子に多い。全身症状の比較的軽いものを軽症型<EEM minor)、広範な粘膜病変と高度の全身症状を伴い、ときに予後不良な型を重症型(EEM major)という。

 2)血沈中等度促進、白血球増多、アークロブリン増加、 CRP陽性など。

 〔組織所見〕①真皮型〔斑状・丘疹型〕:血管周囲性単核球〔・好酸球〕浸潤、真皮浅層の浮腫・表皮下水疱、ときに表皮内浮腫・細胞侵入。

 ②表皮型[虹彩型・重症型]:表皮好酸性壊死、単核球・好中球の表皮内侵入、表皮下水疱のため表皮全層壊死または裂隙形成〔TENに似る〕。

 ③混合型〔斑状・丘疹・虹彩型〕:血管周囲性単核球浸潤、液状変性、海綿状態、巣状表皮好酸性壊死、表皮下水疱、出血。

 〔病因〕

 1)感染アレルギー:溶連菌の病巣感染〔扁桃炎、 ASLO値上昇〕、マイコプラズマ症、白癬疹。

 2)ウイルス:特に単純性ウイルスによるものが多く〔herpes-associated erythema multiforme/postherpetic EM〕、 HSVに対するアレルギー性反応〔免疫複合体疾患〕と考えられ、①HS発症1~3週〔平均10日〕に生じ、②青成年に多く、③再発性、④I、Ⅱ両型HSVいずれでも生じ、⑤症状は一般に軽い〔粘膜は殆ど侵されない〕。

 3)薬剤アレルギー:薬疹のEEM型[cEs^p。 189、薬疹〕。サルファ剤・ペニシリン・ピリッ・血清・ワクチン・バルビタール・抗結核剤・抗腫蕩剤・精神安定剤。以上は免疫複合体疾患を思わす。

 4)その他:寒冷〔凍瘡のM型〕、床虫・蟻の刺螫によるアレルギー、膠原病〔とくにSLE〕、内臓悪性腫瘍クローン病。多病因的(polyetiologic)であり、症例毎の病因の追求が必要。

 〔予後〕2~4週で軽い色素沈着を残して治癒するが、再発しやすい。

 〔治療3

 1〕病因追求:それぞれに応じて扁摘・抗生物質、原因薬の除去。

 2)抗ヒ剤・抗アレルギー剤・消炎剤・NSAID、重症時はステロイド投与。

   伸側好発の原則に反して手掌のような屈側のみに発することがあり、反対型(typusinversus; Matzenauer)という。中央退色して辺縁のみ残ったものを環状紅斑(e。rythema circinatum)、これは融合して花環状紅斑(e。gyratum)、蛇行状紅斑(e。 serpiginosum)となる巨大なものを巨大紅斑(e。e。m。giganticum、 Riesenmultiforme}と称するが、これは現在ではスイート病〔Ef p。 139〕に相当すると思われる。水疱形成するものを水疱性紅斑(e。e。m。bullosum)、また紅斑を生ぜず、充実性丘疹を多発するものを丘疹型(papular form)という。

粘膜皮膚眼症候群 mucocutaneous ocular syndrome:多型滲出性紅斑群、Behget症候群およびその不全型

 眼・口腔粘膜・外陰粘膜・皮膚を侵し、皮膚ではEEMまたはEN様変化、粘膜ではアフタ・EEM様変化、その他種々の程度に全身症状を伴い、古くHebra〔1860〕、

Fuchs〔1876〕の頃から種々の名称で呼ばれてきている。 1958年粘膜皮膚眼症候群総合研究班により、次のように整理分類されたが、このうち1。はEEM重症型(EEM major)に相当し、古くからの名ではStevens-Johnson症候群が最も用いられている。

  1。多型滲出性紅斑群
   erythema exsudativum multiforme 〔Hebia 1860]
   ectodermose erosive pluriorificielle 〔Rendu 1916、 Fiessinger 1923〕
   Stevens-Johnson's disease 〔1922〕
   dermatostomatitis [Baader 1925〕

  2。 Behget症候群およびその不全型

   Behcet's syndrome or triple symptom complex 〔1937〕
   Franceschetti-Valerio's syndlome〔1940〕
   ulcus vulvae acutum 〔Lipschiitz 1913]
   aphthosis chronica recidivans〔Kumer 1936〕
   aphthosis acuta 〔Neumann 1895〕

  3。 Reiter病〔1916〕

1。 多型滲出性紅斑群

 日常比較的多くみられるEEMのうちの重症型〔粘膜症状・全身症状を伴う〕を指す。高熱・関節痛・筋痛・胃腸障害とともに眼・口腔・鼻・肛囲・外陰粘膜に紅斑・出血性水疱・びらん・血痂を生じ、食事摂取・排尿・排便障害を来たし、皮膚にはEEM様発疹を多発する。適切な治療を行わないと死亡することがある。種々の命名があるが、 Stevens-Johnson症候群の名を用いることが多い。


2。ベーチェット病

〔症状〕20歳代に初発し、長年にわたって症状を繰り返し、男子にやや多い。

 「口腔粘膜→皮膚→外陰→眼」という病変発現の順をとることが多い。

 1)発熱・頭痛・関節痛のような前駆症とともに[あるいはこれを欠き]、口腔

 〔口唇・舌・頬〕粘膜にアフタ(aphtha]を生ずる。境界明瞭な豌豆大までの潰扇で、紅暈を有し疼痛が激しい。約10日で治癒するが、再発性である。アフタをもって始まるものが60%以上。

 2)皮膚症状

  a)結節性紅斑様皮疹:下腿次いで前腕に生じ、5~6日で消える。
 
  b)血栓性静脈炎:有痛性皮下索状硬結として触れ、1~3週間ほどっづく。下腿の他、大腿・上肢、ときに体幹をも侵す〔移動性静脈炎〕。

  c)毛包炎~座瘡様発疹:体幹・顔面に毛包一致性または非一致性小膿疱が多発、ことに注射部位に一致して小膿疱を形成する〔針反応〕。20~40%にみられる。

 3)外陰部症状:男子で陰嚢を主とし、陰茎・大腿内側に紅暈を伴う小膿疱を発し、それは直ちに米粒~大豆大の深くえぐれた潰瘍と化し、1~2週で瘢痕治癒する。女子では大陰唇内側・小陰唇・腟・子宮頚部に粟粒~鳩卵大の潰蕩を生じ疼痛激しく、瘢痕をもって治癒する〔急性陰門潰瘍〕。まれに肛囲に生ずる。

 4)眼症状:再発肱前房蓄股肱虹彩炎~ブドウ膜炎を主体とし、これに結膜炎・角膜炎・網膜炎・視神経炎などを伴い、網膜瘢痕性変化および続発陸緑内障などを来して、ついには失明にいたる。

 5)その他の症状

  a)関節痛・血沈促進・ASLO値上昇・CRP陽性・A/G比低下・好中球増多症および遊走能亢進・血小板機能亢進[粘着能・凝集能上昇、βトロンボグロブリン・第Ⅳ因子上昇]・IgA、 G上昇・CH50上昇;血清銅増加。

  b)神経症状neuro-Behget : 脳圧↑・眩暈・うっ血乳頭一眼および顔面神経麻痺・運動失調・嘔吐・てんかん発作・抑うつ・頭痛・不眠・幻視。

  c)循環器症状cardio-Behget : 僧帽弁閉鎖不全。

  d)消化器症状:急性腹症、潰音吐大腸炎

 〔病因〕細菌アレルギー[とくにレンサ球菌]、好中球機能異常〔有機燐・塩素・銅による慢性中毒〕などによる好中球の無菌的膿瘍が主体。 HLA-B51と強い相関性

 〔組織所見〕EN様皮疹:真皮深層・皮下組織上層の血管を中心とする滲出性病変。血管周囲性の円形細胞・多核球・組織球性浸潤で出血傾向あり、またときに類上皮細胞性肉芽腫様変化を示す。

 〔診断〕特異な経過、注射部の膿疱形成〔針反応〕。アフタの時期にあっては、その後の経過に注意して診断を決める。

 〔治療〕①安静、②他科〔眼科・耳鼻科・口腔外科・婦人科〕的な症状を確かめ典型か不全型かを考えつつ治療方針を立てる。③コルヒチン〔白血球遊走抑制〕、④ステロイド剤〔神経型のように生命に関与する場合のみ、眼症状発現増悪に注意〕・NASID、⑤病巣感染の処置、⑥抗生物質〔感染病巣細胞抑制〕、⑦免疫抑制剤〔エンドキサン・イムラン・シクロスポリン〕。

   慢性再発性アフタ:思春期以後の男女に黄色苔を被むる小潰瘍が反復、遺伝素因・月経・精神ストレス、ウイルスなどが考えられる。

Side Memo

 Behget病は1937年トルコのH。 Beh叩日こより記載され、この名を冠するが、これに先立つこと13年、 1924年重田達夫が本症の概念に全く一致する1例を詳しく報告している。世界的には日本・中近東・地中海沿岸に多い。わが国では1950年代より急増したが、 1974年以降急速に減少しまれな疾患となった。これに対して本症と近似性のみられるSweet病が増加してきており、また両者の症状の混在、合併などもみられ興味深い。

 

スイート病、成人スチル病、ライター病の組織所見、病院、鑑別診断、治療


スイート病

 [同義語]acute febrile neutrophilic dermatosis 〔Sweet 1964〕

 〔症状〕

 1)中年に発し、やや女子に多い。

 2)前駆症状:1~4週前に発熱〔39℃〕・頭痛・上気道感染症状。

 3)皮疹:大小の暗赤~紫紅色の滲出性紅斑で皮面より隆起して浸潤あり、表面に小水疱・膿疱をしばしばみる。自発痛ないし圧痛あり。漸次拡大、融合傾向を示す。顔・頚・項・前腕・手背に奸発、ときに体幹を侵す。

 4)その他:関節痛・筋痛・口内炎〔アフタ〕・眼症状〔充血・結膜炎・上強膜炎、一過性で視力障害はない〕、血栓性静脈炎・肝脾腫など。

 5)検査所見:白血球増多・好中球増多〔>70%〕・血沈促進一ASLO高値・CRP陽性。

 〔組織所見〕

 真皮上層浮腫、血管・付属器周囲性細胞浸潤〔主として好中球、その他リンパ・好酸球・組織球〕、核崩壊。

 〔病因〕

 細菌〔連鎖球菌〕に対する過敏反応(hypersensitivity)が考えられ、また白血病・MDS (myelodysplastic syndrome)・内臓癌・自己免疫性疾患〔Sjogren症候群・RA・SCLE・潰瘍性大腸炎〕・Behcet病の先行・合併は、種々の抗原に対する過敏反応hypersensitivity reactionという共通の基盤を持つ一連の疾患であることを窺わせる。 Bw54と相関性がみられる。

 〔鑑別診断〕

 多型滲出性紅斑・持続性隆起性紅斑・Behget病・結節性紅斑。

 〔治療〕

 ステロイド剤、 DDS、コルヒチン、 KJ。 hematological malignancy 精査。
      
4。成人スチル病adult Still's disease

 〔同義語〕アレルギー性亜敗血症subsepsis a]lergica、ピスラー・ファンコニ症候群

 〔症状〕

 1)発熱:長期〔数週~数ヵ月に汎る〕間歇的弛張熱〔38℃前後〕で抗生物質に反応しない。

 2)関節痛:主として大関節の2週を超える関節炎症状で100%に出現。手根骨・手根中手関節の非破壊性融合・強直を来すことあり。

 3)皮疹:体幹・四肢・顔にサーモンピンクの紅斑・丘疹・じんま疹が数時間~数日反復し、発熱と平行することが多い[リウマトイド疹]。まれに皮下出血、水疱、膿瘍、廝痒、粘膜疹。以上をtriadとする。

 4)その他:脾腫・リンパ節腫脹一心外膜炎・筋痛、まれに心内膜炎・心膜炎、消化管壊死性血管炎、急性腹症・肝障害〔GOT・GPT・ALP・LDH↑〕、咽頭痛、腎症、体重減少。

 以上が数~10数年にわたって反復。予後は比較的良いが、関節障害が残ることが多い。

 〔検査所見〕血沈亢進・貧血・白血球増多症〔15、000~30、000〕・好中球増多症・核左方移動・自己抗体陰性・リウマトイド因子陰性・lgやや増加・流血中細菌陰性・血清フェリチン増加。

 [病因]Still病〔juvenile rheumatoid arthritis〕の成人型といわれるが、なお不明。各種ウイルス〔風疹・EB・ヘルペス・インフルエンザ〕抗体価上昇がみられるが一定しない。

 〔治療〕ステロイド剤、 NSAID

5。ライター病morbus Reiter [1916]

 ①多発性関節炎様症状〔関節腫脹・疼痛〕、②結膜炎[虹彩炎・角膜炎]、③尿道炎〔または子宮頚部炎〕、④皮疹〔膿疱・手掌足底の限局性角化・紅斑・じんま疹〕、さらに高熱・体重減少・筋萎縮を来し、経過は長い。男性に多い。淋疾との鑑別が必要。第1次世界大戦中堅濠生活の長いドイツ兵士に多発した。欧州に今も多いが日本ではまれ。病因としてPLO (Mycoplasma hominis)・Bedsonia感染;自己免疫説;生体異常反応体質〔HLA B-27〕などが考えられている。強直性関節炎・血清反応陰性RA・関節症性乾癬・淋菌性関節炎などと鑑別。治療は非ステロイド系消炎剤・ステロイド剤・免疫抑制剤などわが国で50~60例報告。