2cm以上の脳溝が14本ほどあればアルツハイマー

 

 CTやMRIは、早期のアルツハイマー型痴呆の場合、加齢による生理的な脳の萎縮との区別ができないので、あまり役に立ちません。

 ただし、非常に初期の段階で見られる海馬の萎縮については、視覚的にはわからなくても、MRI画像から萎縮部位の面積や体積を測定すれば違いがわかることが報告されています。非常に初期の段階で海馬に一四%の萎縮があった患者さんでは、その約七〇%が約四年以内にアルツハイマー型痴呆であることが明らかになったという報告もあります。

 また、CTでもアルツハイマー型痴呆の特徴をとらえることができるとする説があります。それによれば、脳溝という頭頂部のシワがアルツハイマー型痴呆では太く長くなっているということです。2cm以上の脳溝が十四本前後あればアルツハイマー型痴呆としてよい、という考え方があります。

 現在、画像診断で早期診断に最も有用と考えられているのは「PET(陽電子放出断層撮影)」と「SPECT(単一フォトン放出断層撮影)」です。PETでは、初期アルツハイマー型痴呆患者の側頭頭頂葉などの脳循環代謝に低下が見られ、SPECTでは障害に応じた血流の低下が認められるとされています。

 一方、脳血管性痴呆との区別が必要な場合は、CTやMRI脳梗塞を確認することが有用です。

 また、この二者を区別する簡単な方法として、アメリカでは時計の文字盤を描いてもらう方法がよく行われているようです。

 アルツハイマー型痴呆では、十以上の数字(十一や十二)が書けなかったり、逆まわりに数字を並べたり、また針を正しく描けなかったり忘れたりといった状態になります。

 さらに、画像診断ではありませんが、点眼試験というものもあります。これは、一九九四年に(Iバード大学のシントらが開発した方法ですが、抗コリン剤であるトロピカミドを四十倍に希釈した液体を点眼し、三十分後に瞳孔の開き方を見るものです。

 アルツハイマー型痴呆では、これによって瞳孔が大きく拡大すると言われています。直径が四倍以上になればアルツハイマー型痴呆の疑いがあるということです。

 この正確度はそれほど高いとは言えませんが、陽性と出ればアルツハイマー型痴呆の可能性が高いので、補助診断の一つと考えて実施している医師もいるようです。

 また、さらに、遺伝子診断や、脳脊髄液中のタウタンパクやβアミロイドの濃度を調べることも有用と考えられています。特にタウタンパクの値は初期から上昇することがわかっています。βアミロイドも、変化がある一定に達した段階で症状が発現することがわかっています。これらの変化を早期にとらえることで、本人や家族が自覚できるような症状が出る前の段階で治療を始めることが将来的に可能になることも考えられます。

『快老薬品』酒井和夫著より