「看護行為」の構成内容と学習の過程

 学習のまとまりに関する意思決定をするには、看護の内容と、実際に行う看護行為に関する学習内容の構造をさらに確認しておく必要がある。必要な教授・学習内容のすべてを同時に学ぶことは不可能なので、教育内容をどのようにまとめると効果的に学習が進み、次の学習が容易になるかを考えておかなければならないからである。つまり、学習の転移を考慮して学習の過程をつくることである。


 具体的な内容で看護行為の構成内容を考えてみる。

 「イ建康の維持・増進に関する援助」と「健康の回復に関する援助」に関して、看護の行動面から援助内容をもう少し具体化すると、次のようなものがあげられよう。

(1)健康の維持・増進に関する援助

(2)生命確保のための救急時の援助

(3)日常生活の援助(生命の誕生と終末期ヶアを含む)

(4)治療・処置および検査時の援助

(5)社会復帰時の援助

(6)健康上の問題や訴えに関する教育(説明)・相談

 したがって、看護職者が看護として行うのは上記の内容に関する援助で、たとえば、「望ましい生活習慣を維持するための援助」「心停止時の蘇生」「病床の整備」「食事時の援助」「気管切開時の援助」「創部の手当」「骨髄穿刺時の援助」

 「退院に向けての家庭内の準備に関する援助」「不定愁訴的な訴えに関する援助」「不安状態に対する援助」「予後と就業ないし就学に関する相談」など多様な内容が含まれる。

 では、学習者はどのような学習の過程を経てこれらの援助を行う能力を身につけるのだろうか。その内容的特徴および学習の段階は、次のようにまとめることができよう。

 (1)該当する援助内容の最初から終わりまでの流れと方法を考え、全体像をイメージする。準備の必要なものは、準備から後始末までの行動を連続的にイメージすることになる。ただし、ここでいう援助内容のイメージについては、看護職者が一般に身につけている看護技術としての行動の流れと、対象の個別性を考慮したうえでの行動(看護行為)の流れとがある。たとえば、「原理・原則ないし手順に従って全身清拭を行う」と「対象に合わせて全身清拭を行う」といった行動の流れである。

 (2)該当する看護技術の技術的構成要素としての基本動作を見出す。部分練習を必要とするような基本動作を抽出するつもりで、行動の流れを分節化する(分節化した基本動作には、すでに学習している行動と新しく学習する必要のある行動とがある)。

 (3)上記(2)で分節化した看護技術の基本動作のうち、これまでに練習していないものを確実にできるようになるまで練習する。

 (4)上記(3)で練習した基本動作を該当する看護技術に組み入れて連続的に行い、順序と方法の統合をはかる(分節化して練習した動作を、どのように連続させるのか明確にしながら練習する)。

 (5)上記(4)で練習した該当する看護技術を患者の生活習慣や健康上の問題を考慮して行うにの過程では、必要な情報の収集とその情報を加味した実践およびきめ細かな観察力が求められる)。

 (6)該当する看護行為の過程では、セルフケアヘ移行させるために必要な指導を行う。

 一つの看護行為の学習過程を概略的に述べても上記の6項目となる。このうち、学習の過程では、 (1)であげたように看護職者が一般に身につけている看護の基本技術としての行動の流れと、対象の個別性を考朧した行動の流れを区別し、学習の段階をつくることが考えられる。前者を(a)とし、後者を(b)とすると、(a)の範囲で(1)~(4)を確実に学習し、 (b)では(a)に(5)~(6)の個別匪に関する内容を加えて学習することになる。指定基準に即していえば、 (a)は基礎看護学に関する基礎的内容の学習過程で取り上げられるもので、 (b)は基礎看護学以外の看護学、ことに臨床実習で学習することになる。一つの援助内容を看護行為ないし看護技術としてこのように段階的に考えるのは、学習を容易にすると同時に、評価の時期と内容を明確にするためである。

 このようなことを前提にして必要な学習内容を具体化するには、次のことに留意しなければならない。

(1)各看護技術および看護行為には、認知・情意・精神運動領域の内容が含まれる。

(2)認知領域には、知識レベルから問題解決までの内容が含まれる。主な内容としては、次のようなことが考えられる。

 ①一つの技術として実施するために不可欠な内容(原理・原則的なもの)

 ②方法や手順の決定に関する内容(方法の種類、方法や手順の決定要因)

 ③援助の程度の判定に関する内容(援助の程度、実施時間・実施頻度の決定)

 ④次の援助計画の立案に関する内容

(3)精神運動領域では、一つの援助内容を、その行動の構成要素となる基本動作のまとまりに分節化し、それを一連の行動の流れのなかで問題にしながら実施できるようにする。

(4)情意領域には、クライエントに対する配慮および学習姿勢(興味・関心、学習の習慣)が含まれる。

(5)当面の援助内容に関する学習を中心にしながら、発展目標ないし向上目標を設定して、関連内容を発展的に学習できる。

(6)援助内容によっては、当面の援助内容に関する独自(単独)の行動だけで成り立っているものと、その他の援助においても活用される行動とを組み合わせて(複合)行うものとがある。

 たとえば、仰臥位から側臥位への体位変換は、それに必要な技術を単独で行う内容であるが、仰臥位から腹臥位への体位変換は、仰臥位から側臥位にする行動に、回転させるという別の行動が加わって成立する。全身清拭は、清拭に関する内容に、体位変換・寝衣交換といった別の技術が加わって成立する。

(7)一つの看護技術のバリエーションとして学習できる類似の技術がある。

 その例としては、一つの看護技術を全体的に活用し、一部を変換する場合と、一つの看護技術を実施する際に他の技術で用いる部分行動を組み込む場合とがあげられる。前者の例では、高圧浣腸とグリセリン浣腸の関係のように一つの技術を土台にすることができるもので、それには、目的の違いに伴う方法の違い、同じ内容に一部の他の内容を含むものなどがある。後者の例では、寝具類や処置用シーツなどの取りはずし方、チューブ類の取り扱い方、消毒のしかたがそれである。

 (8)一つの看護技術に次のような内容を加えて学習するように考慮する。

  ①成長発達段階

  ②疾病ないし障害

  ③疾病ないし障害の程度

  ④病院などの施設内における方法と家庭内における方法

(9)単独の内容で成り立つ看護技術でも、使用器具の多様性、家庭や施設内といった場の違い、床上安静や移動の可能性といった患者の状態の違いなどから、多様な方法がありうる。

 このように内容を具体化してみると、一つの看護技術に含まれる学習内容は膨大なものであり、これらの内容を同時に学習するのはむずかしいことが明らかになる。したがって、次のような段階をつけて学習を進めることも考えられる。

 [1]第1段階では、看護職者が一般に身につけていなければならない看護技術(基本技術)に認知領域・情意領域・精神運動領域の内容を含めて、多様に活用できるように学習のまとまりをつくる。

 [2]上記[1]の学習後にクライエントの個別性を加えて臨地実習を含めた学習が行われるようなまとまりをつくる。

 このように学習に段階をつけると、学習成果を確実に評価しながら学習を進めることができるようになる。すなわち、[1]では、看護の基本動作を多様に活用できることを考慮しながら、看護職者として必要な看護技術を確実にできるようにし、[2]では、それを臨床(家庭を含むあらゆる場)で実践できるようになることを目ざす。

 [1]の[看護技術]の学習単元では、次のような点を考慮してまとまりをつくることが望ましい。

 (1)関連領域における看護技術を、準備から後始末までを含めて、だれにでも活用される一般的な技術を看護行為の流れにつながるような形で全体的に問題にする(各看護技術には、認知領域・情意領域・精神運動領域を含む)。関連領域とは、取り上げる内容の範囲のことで、たとえば「清潔の援助」に関していえば、「身体の清潔」「寝衣ないし衣の清潔」などを含めて「清潔の保持とよい身だしなみ、衣類の着脱、皮膚の保護」とすることである。細かく段階をつくって教育する場合には、身体の清潔に限って「身体各部の清潔」として範囲を狭くすることもできる。

 (2)一般論として考えられる範囲で、用具および方法の違い、場・年齢・性別の違いによる方法の違いを考慮する。ただし、年齢による違いについては、指定基準のように成長発達段階によって科目設定する場合には、看護技術の学習過程にいれないようにすることも考えられる。

 (3)取り上げようとする領域のなかで、有機的に関連する内容の範囲を、他の学習内容のまとまりのつくり方との関係において定める。

 上記[2]の個別性を考慮した「看護行為」の学習単元では、次のような点に注意する。

 (1)[1]の看護技術の学習単元に含められる範囲によって含める内容が多少異なる。

 (2)学習の過程には、臨地(病院など施設内および家庭)実習を含めて、実践を通した学習と評価ができるようにする。