技術に関する単元の場合一基礎的内容の学習段階

 「看護技術」に関する単元においても、その単元において期待する学習範囲を明確にしておかなければならない。さらに、看護技術は認知領域・情意領域を含んで存在するものであることを忘れてはならない。

 学習内容を具体化し、教授・学習目標を設定するには、次のような段階を経るのも一つの方法であろう。

 [第1段階]該当する単元の領域で、学習者をどのように変容させたいかということを、看護実践時の行動の形で、該当領域の看護技術をすべてあげる。

 ここであげる「看護技術」には、たとえば「原理・原則ないし手順に従って全身清拭を行う」範囲で、それに必要な認知領域・精神運動領域・情意領域に関する内容が含まれているものとする。このように、「看護技術」を抽出してから学習内容を整理するのは、教育者が学習者の最終的な到達目標を明確にしながら教育でき、一方、学習者がその看護技術を身につけるには、目ざす看護技術の構成内容を一つ一つ学習しなければならないからである。

 [第2段階]第1段階にあげられた一つ一つの看護技術に対して、認知領域・精神運動領域・情意領域の内容を明らかにする。

 その際には看護技術を行うために必要な内 それぞれの看護技術におけるこの3領域の内容を整理していくには、次のようなプロセスをたどる方法も考えられる。

(1)精神運動領域の内容を「一連の流れ」の行動としてイメージし、その看護技術を支える構成要素となる基本動作を明確にする。

(2)上記の行動を実施するのに必要な認知領域の内容を整理し、その内容との関係で精神運動領域の内容を再検討して両者の内容を整理する。

(3)上記(2)であげた認知領域の各項にそれぞれ答えを書いてみて、特定の内容に対する目標の表現方法をさがしていく。

 しかし、この3領域の内容は共に目ざす能力を明確にしてはじめて目標となる表現ができるので、その意味ではこの段階から目標分類学に基づく方法を考慮しながら、系統的に内容を整理することができればなおよい。なお、第2段階の作業過程では能率を考えて、次のような方法をとることも考えられる。

 第1段階であげられた個々の看護技術のなかに、「グリセリン浣腸ができる」と「高圧浣腸ができる」、「導尿ができる」と「尿管にカテーテルを留置できる」、「仰臥位から側臥位に体位変換ができる」と「側臥位から腹臥位に体位変換ができる」といっか類似の技術、すなわち、ほとんどの内容が同一でよい技術の場合には、それらの技術のなかから次のいずれかの考え方に基づいて一つの技術を選ぶ(選んだ技術は「類似の技術のなかで中核となるもの」とよんでよい)。

(1)その看護技術が確実に実施できればよいとして選ぶ場合:選ばなかった技術に関しては、関連の理解にとどめることもある。

(2)それを選べば、関連する技術の全般的な内容を抽出できると思われるものを選ぶ場合:単に内容を効率よく整理するための方便であるため、内容問の重みづけと学習方法については別に考えることになる。

(3)最も複雑なものを選ぶ場合:関連する全般的な内容を一つの技術の分析で抽出できる。(2)と同様の理由が考えられる。

 そして、選んだ一つの技術を前述の3領域に分析し、ついでその他の技術に必要な内容を3領域のそれぞれに加える。このことを「浣腸」の例で模式化する。

 また、3領域に分析する際の精神運動領域の内容では、手順にそって必要項目をあげるのではなく、できるだけ一連の行動の流れを分節化してキーポイントとなる部分行動としての要素、つまり、その看護技術を支える構成要素としての基本動作をあげることが望ましい。たとえば、高圧浣腸では「カテーテルの挿入方法」「カテーテルの抜去方法」といったことがあげられる。基本動作として行動を分節化する際には、部分練習をする必要のある動作を抽出するつもりで選ぶのも一つの方法である。

 さらに、3領域の内容は共に、それがなければ一つの技術が成り立たないと思われる内容については、すでに学んでいると思われるものを含めて抽出し、整理する。すでに学んでいる内容(既習内容)は前提目標になるものであるが、同時に事前的評価とその該当単元への活用面で評価の対象ともなりうる。

 [第3段階]第2段階で整理された各看護技術の3領域の内容を全部並べてみて、重複があればそれを整理する。

 ここでいう重複の整理とは、①表現の上で全く同じものがあればまとめること、②内容間の関連性を考えて一つの目標にまとめることを指している。前者の表現が同じものは当然いずれか一つでよいが、後者の内容間の関係をまとめるときには学習内容に幅と深さをもたせることを考慮し、内容問の関係で学習したほうがよい場合は、その学習につながるような目標の表現を考える。この段階でも、ブルームらの目標分類学に基づいて目標細目分類表および表11に示す枠組みなどの考え方を活用し、目標の再整理をすることが望まれる。類似する看護技術間の内容を模式化すると、次のようになる。

 複数の看護技術間で問題にできる教授・学習目標の具体例としては、次のような方法の説明、相違や選択に関するものがある。     /

 ・方法の種類とそれぞれの適用に関する説明
 ・すべての種類の実施方法の説明
 ・すべての種類の方法の違いに関する説明(用途・必要物品・手順の違い、配慮事項の違い)
 ・ある条件での方法の選択

 この段階における目標の整理過程では、発展目標ないし向上目標を考慮にいれながら必要な内容を整理する。

 [第4段階]第3段階で整理された内容には、3領域のいずれにも、既習内容と本単元で新しく学習する内容(新学習内容)とが含まれるので、その分類を行う。これは、さまざまな知識や技術を駆使して一つ一つの看護技術をつくり上げることになり、常に両者が混在しているからである。

 ここで既習内容と新学習内容を区分するのは、本単元での学習に必要な前提行動となるものと、本単元での直接的な学習内容を明確にするためである。この両者については、本単元における評価を確実にするために、本単元独自の内容を明確にし、また既習内容については本単元との関連とその活用方法を学習する必要があるので、それぞれの内容を整理しておかなければならない。いうまでもなく、本単元における直接的な評価の対象となるのは新しい学習内容であるが、その内容のなかには一部発展目標ないし向上目標となる内容も含まれることになる。関連する既習内容を整理するのは、それを本単元での学習内容に活用しなければならないからである。

 3領域の内容を既習内容と新学習内容からみて模式化すると、次のようになる。

 [第5段階]第4段階で整理された内容ないし目標は、最初に抽出した看護技術から派生する、本単元における直接的な内容に限られる。最初にあげる看護技術が看護実践上必要不可欠なものであれば、これらの内容は全学習者が到達しなければならない最低到達目標である。しかしその評価にあたって、すべての内容を取り上げて問題にすることはできないので、形成的評価の段階で確実に評価の対象とするものと、総括的評価で対象にするものとの関係を考え、評価目標を吟味することになる。さらに、各単元の教授・学習目標を設定する際には、最低到達目標だけではなく、その学習の過程で深化学習が期待される内容(向上目標)や本単元の学習をさらに発展させていくために、次のステップで学習する内容(発展目標)が、学習者にわかるような形で単元目標を構成することが望ましい。

 [第6段階]次は、第4および第5段階で整理された内容ないし目標をどのように組み合わせ、どのような順序で教授・学習を進めていくかを検討し、この単元レベルにおける教授・学習計画に基づく評価計画を立てることになる。この際には、最初に抽出した各看護技術を念頭におきながら、実践に向けて効果的な教育をする方法を考えなければならない。なお、第5段階で追加した向上目標と発展目標については、最低到達目標に到達した学習者に深化学習として学習させる内容ともなる。内容の組み立て方には、次のような方法が考えられる。

(1)第1段階であげた看護技術をそれぞれに取り上げる方法、認知領域および情意領域の内容はそれぞれに含める。

(2)第2段階で整理した内容のうち、精神運動領域の基本動作を関連のあるもの、あるいは類似した内容から学習のまとまりをつくり、その学習終了後に基本動作を統合しながら目標とする看護技術の学習へと進めるようにする。認知領域および情意領域の内容は必要に応じて組み入れる。

(3)第2段階で整理した認知領域・情意領域および精神運動領域の内容をそれぞれにおいて、関古注のあるもの、あるいは類似した内容でまとめて順序を決める。

(4)第2段階で整理した認知領域・↑青意領域および精神運動領域の内容のそれぞれにおいて、先行学習がそれに続く学習に生かせるように学習の転移を考えたまとまりをつくる。

C.技術に関する単元の場合一臨床における看護の学習段階

 臨床における看護の学習段階の内容を具体化する場合も、基礎の学習段階の内容を具体化する方法に準ずることになるが、ここでは、各看護技術にクライエントの特徴や個人の特性を加えた「看護行為」のつくり方を考えることになる。したがって、一般論としての看護技術に何を加えればよいのかが問題となる。[看護行為]の実施に必要な学習内容を、まず大まかにあげると次のようになる。

(1)一般論としての実施順序
(2)原理に基づく一般的な看護技術の実施
(3)対象に合った方法を決めるための考え方や根拠
(4)対象に合った実施方法の決定
(5)対象の諸条件を考慮した看護行為の実施

 このなかで、 (1)と(2)および(3)に関する一部については、「技術に関する単元の基礎の学習段階」で学習しているので、本単元の直接的な内容ではなく、既習内容として整理できる。本単元では、 (3)に関する必要内容と(4)と(5)のクライエントへの適用方法を取り上げることになる。

 (3に関する必要内容の側面を概略的にあげると、次のようなことが考えられる。

 ・該当する看護技術に関する使用可能な方法の種類と適応
 ・具体的な実施方法とその理論的根拠
 ・実施過程での観察視点と観察方法
 ・観察内容の解釈と判断
 ・該当する看護技術に必要な患者の情報の収集
 ・必要な患者の情報と該当する看護技術との統合のさせ方
 ・人の気持ちの推察のしかた
 ・保健指導、および自立への指導方法

 これらの内容を総合して、 (4)の対象に合った実施方法を決定し、 (5)の個別匪を考慮した看護行為の実施へとつなげる。実施過程では、 (3)にあげた内容を評価規準として、個人の特性をさらに深くとらえ、次のヶアに生かせるようにし、一方では基本動作の対象に応じた方法の検討をするように考える。つまり、看護過程を問題にしながら、看護技術および看護の方法の学習を進めるようになる。これは、臨床では患者の個別匪が強調されるが、看護技術を適用するにあたっては、原理に基づく一般的な看護技術が中心となり、その流れのなかに必要であれば、個人的特徴を反映させることになるからである。

D/情意領域に関する学習内容の場合

 看護教育における情意領域に関する学習内容には、対人関係および自己の成長に関する内容を中心とした諸目標が含まれる。たとえば、患者ないしクライエントとその家族への配慮、関係従事者・同僚との協調、現象ないし事象(学習内容)への興味・関心、関連事項に関する価値観、学習の習慣、社会的存在としての態度などが、それである。

 これらのうち、コミュニケーションに関する内容については、一つの学習のまとまりをつくることができるが、その他の内容については、いずれも日々の行動における動機づけによって啓発されるもので、一つの学習単元をつくって学習するものではない。考え方によっては、コミュニケーションに関する内容についても、単独に学習のまとまりをつくるより、一つ一つのヶアのなかで夕イミングと方法を学ぶほうが実際的である。このように情意領域の内容に関しては、できるだけすべての学習単元において意図的に関連内容を組み入れて学習目標を設定することが望まれる。

 含める内容の整理のしかたとしては、取り上げる内容の性質によって、次のような多様な方法が考えられる。

 ・「配慮(患者・家族・同室者・関係者に対する)」と「環境の調整」
 ・「配慮」「関心・興味」と「習慣化」
 ・「配慮」「批判力」と「関心・興味」
 ・「原動力(好奇心・集中力・協力)」、「成就感(発見・成功)」と「価値観(批判・創造・工夫)」