韓国の国家プロジェクトで開発されたメシマコブの製剤

 

 メシマコブの名が研究者から忘れ去られていったといっても、忘れない研究者がいた。もちろん山名先生もその一人だったが、韓国の研究者もまたメシマコブを忘れなかったのだ。ガンで苦しむ患者さんのために、山名先生は韓国のメシマコブ研究陣との交流をはじめる。

 

 そして、メシマコブの名前が、20世紀が終わろうとするときに華々しく脚光を浴びる。メシマコブの特定菌株であるPL2・PL5を原料とする製剤が韓国で開発され、ガン治療に利用する医師が急増してきたのだ。本書の冒頭で紹介した二人の患者さんもPL2・PL5を原料とする「メシマコブ」を食べ、現代医学では奇跡といわれるような回復ぶりを示した。

 

 山名先生との交流以後、韓国では、メシマコブの研究がつづけられていた。そして、1984年からは、韓国科学技術省と韓国生命工学研究所、それに製薬会社の韓国新薬が、

国家プロジェクトとしてメシマコブの研究開発に取り組んでいた。

 

 その結果、韓国新薬はメシマコブの菌株の培養に成功して特許を取得し、医薬品の名前を「メシマキャプセル」として登録(日本では『メシマコブPL2・PL5』などの名前で健康食品として版売されている)、その培養菌糸体PL2・PL5の熱水抽出物からの製剤開発に成功している。

 

 そして、1993年10月、この製剤は韓国政府から正式に抗ガン剤として医薬品の認可を受け、現在、韓国の大学病院など多くの医療機関でガン治療に用いられている。

 

 この功績により、メシマコブPL2・PL5の菌糸体の培養から製造された医薬品は、すぐれた工業製品に対して与えられる科学技術賞を1997年度に受賞し、1998年9月には韓国のノーベル賞といわれる茶山賞を個人と団体の両部門で受賞している。個人で受賞したのは韓国生命工学研究所の兪益東(ヨウーイクドン)博士、団体で受賞したのは韓国新薬だった。

 

 韓国新薬が発表したレポートがある。自信にあふれたレポートは、誇らしげにこう締めくくられている。

 

 「担子菌類の抗ガンカをサルコーマー80によって検索した十数種類の担子菌類のなかで腫瘍阻止率が96・7%で最もすぐれた結果を見せたメシマコブは、天然で得ることはもちろん、子実体の栽培も菌子体の大量培養もむずかしく、研究がつづけてできなかった。この点で本研究陣は1984年から、メシマコブの培養仁注力する一方、その効能、効果を検討した結果、培養に関する特許を取得し、医薬品化させることに成功した」

 

 このレポートには、困難をきわめたメシマコブの培養を成功させ、さらに製剤化をなし遂げた自信があふれている。よく「苦節何十年」といわれるが、韓国新薬が医薬品「メシマキャプセル」を実用化した裏には、そうした言葉ではいい尽くせない労苦がめったことだろう。

 

ガン臨床医はなぜ「メシマコブを」使うのか  北用栄志[著] 定価 本体1000円(税別)