ウイルスのクレード分類について


クレードおよびサブクレードの分類は、あくまでもHA遺伝子の塩基配列の違いに基づいたものであり、病原性や生物学的な性状とは独立したものです。しかし、フェレット感染免疫血清を用いた試験の結果、同じ系統のウイルスは、抗原的にも互いに近縁であるが、異なる系統間では抗原性が大きく異なることが示されています。これは、H5N1型インフルエンザウイルスに対するワクチンを開発する際に、どの系統のウイルスを用いてワクチンを開発すべきかという大きな問題となっています。

一方、これらのすべての系統のウイルスが、ヒトへの感染効率、病原性、病態、治療効果などについて、詳細に比較した研究結果は公表されていませんが、基本的にはすべて同じような重症疾患です。クレード1の流行で報告された下痢などの消化器症状は、ほかの系統のウイルスでは比較的軽度のようではあります。中国で流行しているクレード2-3のウイルス感染患者においては、解剖検体の検索から全身感染や妊婦における胎児への感染が証明されています。しかし、ほかの系統のウイルスについては、臨床的には同じような病態が強く示唆されてはいるものの、解剖例が極端に少なく、直接に証明はされていません。

医学的にも、病原性やヒト型への変化と関連するような際立った違いは、特に見つかっていません。しかし、クレード2-2のウイルスは、抗ウイルス剤であるアマンタジンに耐性があり、これを規定するM2遺伝子の一ヶ所がそれ以外の系統とは異なっています。

H5N1ウイルスといっても、流行しているウイルスは様々であり、今後もさらに多様化していくに違いありません。これまで観察、報告されてきた流行疫学、患者の病態、臨床症状、治療効果などは、すべてのH5N1型ウイルスに共通に当てはまるものなのでしょうか。ある系統のウイルスのみ、あるいはそのと食う別なウイルス株のみで認められるものなのでしょうか。的確な早期診断や有効な治療、また予防対策を確立する上で、詳細な医学研究が必要です。