粘膜皮膚眼症候群 mucocutaneous ocular syndrome:多型滲出性紅斑群、Behget症候群およびその不全型

 眼・口腔粘膜・外陰粘膜・皮膚を侵し、皮膚ではEEMまたはEN様変化、粘膜ではアフタ・EEM様変化、その他種々の程度に全身症状を伴い、古くHebra〔1860〕、

Fuchs〔1876〕の頃から種々の名称で呼ばれてきている。 1958年粘膜皮膚眼症候群総合研究班により、次のように整理分類されたが、このうち1。はEEM重症型(EEM major)に相当し、古くからの名ではStevens-Johnson症候群が最も用いられている。

  1。多型滲出性紅斑群
   erythema exsudativum multiforme 〔Hebia 1860]
   ectodermose erosive pluriorificielle 〔Rendu 1916、 Fiessinger 1923〕
   Stevens-Johnson's disease 〔1922〕
   dermatostomatitis [Baader 1925〕

  2。 Behget症候群およびその不全型

   Behcet's syndrome or triple symptom complex 〔1937〕
   Franceschetti-Valerio's syndlome〔1940〕
   ulcus vulvae acutum 〔Lipschiitz 1913]
   aphthosis chronica recidivans〔Kumer 1936〕
   aphthosis acuta 〔Neumann 1895〕

  3。 Reiter病〔1916〕

1。 多型滲出性紅斑群

 日常比較的多くみられるEEMのうちの重症型〔粘膜症状・全身症状を伴う〕を指す。高熱・関節痛・筋痛・胃腸障害とともに眼・口腔・鼻・肛囲・外陰粘膜に紅斑・出血性水疱・びらん・血痂を生じ、食事摂取・排尿・排便障害を来たし、皮膚にはEEM様発疹を多発する。適切な治療を行わないと死亡することがある。種々の命名があるが、 Stevens-Johnson症候群の名を用いることが多い。


2。ベーチェット病

〔症状〕20歳代に初発し、長年にわたって症状を繰り返し、男子にやや多い。

 「口腔粘膜→皮膚→外陰→眼」という病変発現の順をとることが多い。

 1)発熱・頭痛・関節痛のような前駆症とともに[あるいはこれを欠き]、口腔

 〔口唇・舌・頬〕粘膜にアフタ(aphtha]を生ずる。境界明瞭な豌豆大までの潰扇で、紅暈を有し疼痛が激しい。約10日で治癒するが、再発性である。アフタをもって始まるものが60%以上。

 2)皮膚症状

  a)結節性紅斑様皮疹:下腿次いで前腕に生じ、5~6日で消える。
 
  b)血栓性静脈炎:有痛性皮下索状硬結として触れ、1~3週間ほどっづく。下腿の他、大腿・上肢、ときに体幹をも侵す〔移動性静脈炎〕。

  c)毛包炎~座瘡様発疹:体幹・顔面に毛包一致性または非一致性小膿疱が多発、ことに注射部位に一致して小膿疱を形成する〔針反応〕。20~40%にみられる。

 3)外陰部症状:男子で陰嚢を主とし、陰茎・大腿内側に紅暈を伴う小膿疱を発し、それは直ちに米粒~大豆大の深くえぐれた潰瘍と化し、1~2週で瘢痕治癒する。女子では大陰唇内側・小陰唇・腟・子宮頚部に粟粒~鳩卵大の潰蕩を生じ疼痛激しく、瘢痕をもって治癒する〔急性陰門潰瘍〕。まれに肛囲に生ずる。

 4)眼症状:再発肱前房蓄股肱虹彩炎~ブドウ膜炎を主体とし、これに結膜炎・角膜炎・網膜炎・視神経炎などを伴い、網膜瘢痕性変化および続発陸緑内障などを来して、ついには失明にいたる。

 5)その他の症状

  a)関節痛・血沈促進・ASLO値上昇・CRP陽性・A/G比低下・好中球増多症および遊走能亢進・血小板機能亢進[粘着能・凝集能上昇、βトロンボグロブリン・第Ⅳ因子上昇]・IgA、 G上昇・CH50上昇;血清銅増加。

  b)神経症状neuro-Behget : 脳圧↑・眩暈・うっ血乳頭一眼および顔面神経麻痺・運動失調・嘔吐・てんかん発作・抑うつ・頭痛・不眠・幻視。

  c)循環器症状cardio-Behget : 僧帽弁閉鎖不全。

  d)消化器症状:急性腹症、潰音吐大腸炎

 〔病因〕細菌アレルギー[とくにレンサ球菌]、好中球機能異常〔有機燐・塩素・銅による慢性中毒〕などによる好中球の無菌的膿瘍が主体。 HLA-B51と強い相関性

 〔組織所見〕EN様皮疹:真皮深層・皮下組織上層の血管を中心とする滲出性病変。血管周囲性の円形細胞・多核球・組織球性浸潤で出血傾向あり、またときに類上皮細胞性肉芽腫様変化を示す。

 〔診断〕特異な経過、注射部の膿疱形成〔針反応〕。アフタの時期にあっては、その後の経過に注意して診断を決める。

 〔治療〕①安静、②他科〔眼科・耳鼻科・口腔外科・婦人科〕的な症状を確かめ典型か不全型かを考えつつ治療方針を立てる。③コルヒチン〔白血球遊走抑制〕、④ステロイド剤〔神経型のように生命に関与する場合のみ、眼症状発現増悪に注意〕・NASID、⑤病巣感染の処置、⑥抗生物質〔感染病巣細胞抑制〕、⑦免疫抑制剤〔エンドキサン・イムラン・シクロスポリン〕。

   慢性再発性アフタ:思春期以後の男女に黄色苔を被むる小潰瘍が反復、遺伝素因・月経・精神ストレス、ウイルスなどが考えられる。

Side Memo

 Behget病は1937年トルコのH。 Beh叩日こより記載され、この名を冠するが、これに先立つこと13年、 1924年重田達夫が本症の概念に全く一致する1例を詳しく報告している。世界的には日本・中近東・地中海沿岸に多い。わが国では1950年代より急増したが、 1974年以降急速に減少しまれな疾患となった。これに対して本症と近似性のみられるSweet病が増加してきており、また両者の症状の混在、合併などもみられ興味深い。